スエズの事故:日本の荷主たちは欧州への新しい道を探す (DW English)

スエズの事故:日本の荷主たちは欧州への新しい道を探す (DW English)









(Suez accident: Japanese shippers look for new ways to Europe: DW English)

https://www.dw.com/en/japan-suez-canal-ever-green-shipping/a-57580724





アジア





スエズの事故:日本の荷主たちは欧州への新しい道を探す





日本の海運業界は、スエズ運河への依存を減らそうとしている。彼らは、東アジアと欧州の主要市場を結ぶ代替ルートの調査を加速している。







エバーギブンを所有する正栄汽船は、スエズの事故をめぐる法廷闘争に巻き込まれたことに不満を抱いている。





日本の運輸業界は既に欧州の極めて重要な市場と東アジアを結ぶ代替ルートを探していた。



3月にスエズ運河日本企業が所有するコンテナ船・エバーギブン座礁事故に続いて発生した現在進行中の問題により、彼らは調査を加速した。



中東の不安定さの高まりもその要因の1つだが、日本・愛媛県に本社を置くエバーギブンの船主・正栄汽船は、事故をめぐる法廷闘争に巻き込まれたことにも強い不満を抱いている。



エジプトの裁判所は、船主が9億ドル(7億3700万ユーロ)を超える補償金を支払うまでこの400メートルの船を差し押さえることを求める、スエズ運河庁の申し立てを認めた。



この船は、中国からオランダの都市ロッテルダムに航行するために台湾に本社を置く長栄海運がチャーターしており、運河を通過するために地元パイロットの監督を受けていた。しかし、同船が航路を6日間封鎖したために当局側に数百万ドルの費用が発生し、他の船の通行も出来なかった。



船主は船の貨物を降ろすことを許可されておらず、次の法廷審問は5月22日に設定されている。



船主が最終的な支払いを強制された場合、最大の受益者はロシアと中国かも知れないと観測者たちは考えている。





スエズの代替ルート探し



交通の政策・システムが専門の林義嗣・中部大学教授は、「日本企業が少なくとも代替ルートを検討することは確かに非常に賢明な動きだが、このそれぞれに欠点があることも忘れてはいけない」と、DWに語った。



林氏によると、東アジアと欧州を結ぶ利用可能な代替ルートは3つあり、4つ目は開発中だ。



1つ目は、南アフリカ喜望峰を回る旅に戻ることだ。これは、1869年11月に長さ193 km(120マイル)のスエズ運河が完成する前に使われたルートだった。



この明らかな欠点は他の代替ルートよりも距離が相当長く、そのため経費が高いことだ。



近年注目を集めているもう1つの可能性は、ロシア北側の北極ルートだ。



このルートは、夏期の海氷が薄くなってきた御陰で航行がますます容易になっている。これは地球の気温上昇の副作用であり、また、少なくとも部分的に氷で覆われた水域で船の運航を可能にする船舶技術の向上に因るものだ。



この明らかな利点は、行程が約38日から僅か19日に短縮され、必要な燃料の量と排出される汚染が劇的に減少することだ。



2010年、ロシア北側の海岸線に沿って3,500キロメートルの行程を進み切った船は僅か11隻だった。2020年、これが133隻へと記録的に増えた。



ある調査によると、この数字は2030年までに年間500本、2050年までに900本に増加すると予測されている。





ロシアと中国の野心



ロシアはまた、東海岸港湾都市ウラジオストクから欧州への直接的な連絡路としてシベリア横断鉄道を推進している。ロシアの鉄道インフラの信頼性に懸念があるものの、設備は既に整っている。それでもなお、ウラジーミル・プーチン露大統領は、その可能性ある2ルートからの暴風雨を予想しているようだ。



2018年5月、プーチン氏はその先6年間の国家目標についての大統領令に署名した。これには、「鉄道によるコンテナ輸送の所要時間、特に、ロシア極東からロシア西部国境までを7日間に短縮し、鉄道による通過コンテナ貨物量を4倍にする」ことが含まれる。



また、この命令は「北極海航路を開発し、その貨物輸送量を最大8800万トン増加させる」よう求めている。



1月、阪急阪神エクスプレスという日本企業はシベリア横断鉄道を利用した鉄道輸送サービスを開始した。このルートは海上輸送よりも日数が2週間以上少なく価格も航空輸送の半分だと、同社は指摘する。



日本からの荷物は船でウラジオストクに運ばれ、そこで列車に載せ替えられてポーランド・クトノ市まで運ばれ、そこからヨーロッパの他の場所に送ることが可能だ。デンマークの海運企業マースク社は、鉄道による連絡を介した同様のサービスを運営している。



また、中国は東アジアと欧州の間を行き来する商品の積み替え地になるという野心を持っている。同国の一帯一路構想(BRI)には、多数の輸送インフラストラクチャーが要素に含まれている。



中部大学の林氏は、ロシアにとって北極海航路とシベリア横断鉄道を使った連絡路を促進することは、十分な数の企業がこれらのルートを採用すれば同国は相当な金額を得る位置にあるため、「非常に良い考え」だと述べた。



それでも、彼は、モスクワや北京に依存するコースはいずれも「政治や地政学上の争いの影響を受けやすい」と警告した。





「試されて信頼を得た」スエズ



東京・国際基督教大学の国際関係学准教授スティーブン・ナギ氏は、「試されて信頼を得たスエズルート」から離れた企業には内在的なリスクが存在すると述べた。



「北極航路は通年運行が不可能で、シベリア横断鉄道を使った連絡路は単に量を処理できない」と、彼はDWに語った。「確かに、ロシアと中国はこれらのルートにより経済的機会を得ることを強く望んでいるが、それは日本の外交関係―例えば、米国との関係―を非常に複雑にするだろう。」



日本最大級の海運会社・大阪商船三井船舶は、事態の展開を常に把握していることを明らかにしているが、北極海航路の問題については態度を曖昧にしている。



「その行程は専門の船を必要とし、また、冬の期間は非常に厳しいので、現時点ではそれを選択肢には考えていない」と、ある同社職員は述べた。「しかし、このルートは夏が来る度に使い易くなっているので、おそらく将来は可能性があるだろう。」





発表 2021年5月19日

記者 ジュリアン・ライオール(東京)

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