中国、「香港国家安全維持法案」を全会一致で可決/【解説】 中国の「香港国家安全維持法」 香港市民が恐れるのは (BBC NEWS JAPAN)
https://www.bbc.com/japanese/53231088
中国、「香港国家安全維持法案」を全会一致で可決
2020年06月30日
AFP
香港では昨年春から民主化などを求めるデモが行われた
中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会が30日、「香港国家安全維持法案」を全会一致で可決したことがわかった。
中国政府は5月に、香港での反逆や扇動、破壊行為、外国勢力との結託などを禁止する法律を制定すると発表。中国が独自の治安機関を香港に設置できるとの規定も盛り込むとしていた。
香港では昨年春から犯罪容疑者の中国本土引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改定案をめぐるデモが始まり、民主化運動に発展。今回の法制定は、こうした動きを受けてのものだという。
民主化運動に影響か
香港の民主活動家らは、7月1日に抗議の行進を予定している。新法によって逮捕される恐れがあるが、実施する考えだという。
一方、著名活動家の黄之鋒(ウォン・ジーフン、英語名ジョシュア・ウォン)氏がリーダーを務める民主派政党「香港衆志(デモシスト)」は30日、すべての活動を停止するとフェイスブックで発表した。同氏はこの発表に先立ち、同党を離れると表明した。
周庭(アグネス・チョウ)氏や羅冠聰(ネイサン・ロー)氏も、デモシストを離脱すると発表している。
香港は1997年にイギリスから中国に返還されたが、その際に香港の憲法ともいえる「香港特別行政区基本法」と「一国二制度」という独自のシステムが取り入れられた。
このため香港では、中国のその他の地域では認められていない集会の自由や表現の自由、独立した司法、一部の民主的権利などが保護されている。
しかし国家安全維持法の制定により、こうした香港独自の特性が脅かされているとの批判が出ている。
5月の発表以降、香港では法案に反対するデモが多発。アメリカやイギリスなど外国からも反対の声が相次いだ。
中国政府は、こうした批判は内政干渉だと一蹴している。
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AFP
5月の発表以降、香港では法案に反対するデモが多発した
法律の詳細は30日午後にも発表される予定で、7月1日に発効する見通しとなっている。
この日は香港返還の記念日に当たり、通常は香港で大きな政治的抗議運動が展開される。
新法の内容は?
中国政府は正式な発表をしておらず、法律の各条項も公表されていないが、いくつかの詳細が報じられている。
それによると、中国からの分離、中央政府の権力や権限を損なう行為、暴力や威圧行動、香港に介入する外国勢力の活動などは、いずれも違法になる。
また、中国政府が香港に設置する新しい治安機関が香港での治安事件を取り扱う。この機関は香港の学校における治安教育も監督する。
さらに、香港の既存法と矛盾が生じた場合は国家安全維持法が優先されるという。
(英語記事 China passes controversial Hong Kong security law)
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https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-53230415
【解説】 中国の「香港国家安全維持法」 香港市民が恐れるのは
2020年06月30日
ANTHONY WALLACE/AFP
中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会は30日、全会一致で「香港国家安全維持法案」を可決した。
中国政府は同法を通じて、香港での反政府的な活動を犯罪として取り締まる考えで、香港独自の自由が失われる懸念が出ている。
香港市民が恐れていることとは何なのか?
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香港ではもともと、治安維持の法律整備が想定されていたが、あまりに住民の反対が強く、自治政府は成立にこぎつけることができなかった。
国家安全維持法は、中国政府が国家権力に対する深刻な挑戦とみなす動きに対応できるよう、香港において必要な法的枠組みを確立するためのものだ。
この法律では、以下の4つが犯罪行為となることが分かっている。
香港にはどんな影響が?
現時点で分かっている内容は以下の通り。
- 中国政府は香港に独自の治安機関を設置する。この機関は情報収集とともに国家安全保障を脅かす「犯罪を取り締まる」という。また、一部の事件は香港以外の場所で裁判にかけることもできるという。中国政府は、こうした権限は「ごく一部の」事件にしか適用されないとしている
- 香港はこの法律を施行するために独自の安全保障委員会を設置し、中国政府が任命した顧問を起用する
- 安全保障に関わる事件の裁判については、香港の行政長官が裁判官を指名できる。この条項によって司法の独立が損なわれるという懸念が出ている
- 法案を策定した委員会に唯一参加した香港の代表によると、安全保障に関わる犯罪で有罪となった場合、5~10年の禁錮刑が科せられる予定。一方、香港行政会議筋によると、終身刑が科せられる可能性もあるという
- この法律の解釈は香港の司法・行政機関ではなく、中国政府に委ねられる。香港の既存法と矛盾が生じた場合、国家安全法が優先される
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香港市民の恐れていることとは
中国政府は、香港は国家安全保障を守りながら権利や自由を尊重・擁護すべきだとしている。しかし多くの市民は、国家安全維持法によって香港の自由が失われてしまうことを恐れている。
香港大学の陳文敏教授(法学)は、「この法律が香港市民の表現の自由に深刻な影響を与えることは明らかだ」と指摘している。
すでに多くの市民がフェイスブックの投稿を消去しているという。国家安全維持法に反対してきた政治家が、今後は選挙に立候補できなくなる可能性もある。
また、この法律によって香港の司法システムが中国のものに急激に近づくため、司法の独立が損なわれる恐れがあるという。
「これは事実上、香港のコモン・ローのシステムに、中華人民共和国の刑法を適用しようとしており、誰がどちらの法で裁かれるかが全くの自由裁量になってしまう」と陳教授は説明する。
香港の民主化運動のリーダーとして著名な黄之鋒(ウォン・ジーフン、英語名ジョシュア・ウォン)氏などは、外国政府へのロビー活動も行っているが、こうした活動も今後は犯罪となる可能性がある。多くの人が、この法律が遡及法となることを心配している。
さらに、こうした香港の自由に対する脅威が、ビジネスや経済の中心地としての香港の訴求力にも影響を与えるという懸念も出ている。
中国はなぜ国家安全維持法を可決したのか
香港は1997年にイギリスから中国に返還されたが、その際に香港の憲法ともいえる「香港特別行政区基本法」と「一国二制度」という独自のシステムが取り入れられた。
これにより香港では、中国のその他の地域では認められていない集会の自由や表現の自由、独立した司法、一部の民主的権利などが保護された。
一方で基本法には治安維持の法律整備も定められているものの、あまりに住民の反対が強く、自治政府は成立にこぎつけることができていない。
ISAAC LAWRENCE/AFP
そして昨年、犯罪容疑者の中国本土引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改定案をめぐるデモが始まり、民主化運動に発展。
中国政府は、こうした事態は二度と見たくないと思っている。
中国政府はこの法律を強行できるのか
それが今、正に起きようとしていることだ。
香港の基本法によると、香港で適用される中国の法律は「第3付属書」に書かれているものに限られる。すでにいくつかの法律が名を連ねているが、ほとんどが論争の起きるものではなく、外交方針についてのものだ。
こうした法律は中国政府からの布告という形で制定されるため、香港の議会を通す必要がない。
こうしたシステムは、香港が重要視している「一国二制度」を侵害しているものだとの批判もある。
取材:グレース・ツォイ、ラム・チョウ・ワイ(BBC)
(英語記事 China's new law: Why is Hong Kong worried?)
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