「ガザ:病院の攻撃・世界からの非難・休戦」(BBC NEWS JAPAN・Pars Today)
(BBC NEWS JAPAN)
https://www.bbc.com/japanese/67423004
イスラエル軍、ガザ最大病院で「対ハマス作戦」開始 病院地下に司令部とアメリカ
2023年11月15日
Getty Images
ガザ市にあるアル・シファ病院にとどまる患者と避難者(10日)
パレスチナ自治区ガザ地区でイスラム組織ハマスに対する地上作戦を続けるイスラエル国防軍(IDF)は15日早朝、同地区最大のアル・シファ病院で対ハマス作戦を実施していると発表した。アメリカは14日、同地区を実効支配するハマスがアル・シファ病院の地下に司令部を設置しているとの情報を得たとした。
IDFは「諜報活動で得た情報と作戦上の必要性に基づき」、ガザ市のアル・シファ病院の敷地の一部で「ハマスに対する正確かつ標的を絞った作戦」を実施していると発表した。
IDFはソーシャルメディアに投稿した声明で、「部隊には、この複雑かつセンシティブな環境に備えるための特殊訓練を受けた医療チームとアラビア語話者が含まれる」と説明。
「ハマスに人間の盾として使われている民間人に危害を加えない」ことがその狙いだとしている。
また、アル・シファ病院でのすべての軍事活動を止めるようガザ当局に最近伝えたが、聞き入れられなかったとした。
BBCはイスラエル側の報告を即座には検証できていない。
米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は14日、ハマスがアル・シファ病院の地下に司令部を置き、そこに武器を保管し、イスラエルの攻撃に備えていると指摘した。
ハマスが活動拠点を隠すために病院を利用しているとのイスラエルの主張を、アメリカが独自に支持したのはこれが初めて。ハマス側はこうした主張を否定している。
ガザ地区の病院をめぐっては、身動きが取れない民間人を保護するようイスラエルに求める声が世界的に高まっている。
ジョー・バイデン米大統領は、アル・シファ病院の周辺で起きている激しい戦闘から同病院は「保護されなければならない」と述べていた。
リシ・スーナク英首相も、イスラエルは国際法の範囲内で行動しなければならないとしていた。
アル・シファ病院の周辺ではここ数日間、戦闘が集中している。同病院には数千人が避難しているとみられる。
イスラエル軍が病院を「襲撃」
ガザ地区で取材するBBCのラシュディ・アブ・アルーフ記者は、アル・シファ病院内の目撃者の話として、イスラエル兵が同病院への襲撃を開始したと報告している。
この目撃者は、「(イスラエルの)兵士たちは発煙弾を発射して、中にいる人が息ができないようにした」、「兵士たちが外科の特別部門に入っていくのを見た」と話した。
さらに、「病院の敷地内に戦車6台と、奇襲部隊の兵士100人以上が入るのを見た。病院の主要な救急診療部に侵入してきた。一部の兵士は顔を隠していて、アラビア語で『動くな、動くな』と叫んでいた」と話した。
BBCはこの主張を独自に検証できていない。
病院を利用し「軍事作戦を隠す」
カービー氏は14日、ハマスとガザ地区の武装組織「イスラム聖戦機構」が、同地区の複数の病院とその地下にあるトンネルを使って軍事作戦を隠し、人質を拘束していることを示唆する独自の情報を、さまざまな情報源から得たと述べた。
米政権はこれまで、広く公開されている情報を引用するのみで、独自の情報源があるかは認めていなかった。
「ハマスとパレスチナ・イスラム聖戦機構のメンバーは、ガザ市のアル・シファ病院から指揮統制拠点を操作している」と、カービー氏は述べた。
「彼らはそこに武器を保管しており、その施設に対するイスラエル軍の作戦に対応する準備をしている」
また、「ハマスは民間人の中に深く入り込んでいて」、イスラエルの作戦は非常に困難なものになっているとした。
「明確にしておくが、我々は病院を空から攻撃することを支持していないし、(アル・シファ)病院での銃撃戦は望んでいない。罪のない人々、無力な人々や病人は砲火に巻き込まれるためではなく、当然の治療を受けるためにそこにいる。病院と患者は守られなければならない」
「我々は何度も明言してきた。ガザ市民を守るというイスラエルの責任を軽減するものではなく、これは明らかに、我々が相手国と積極的に話し合っていくことだ」
こうした説明に対してハマスは、イスラエルが米政府の評価を利用して、医療施設に対する「残忍な虐殺」を行うためのゴーサインを出し、「ガザ地区の医療システムを破壊し、パレスチナ人を立ち退かせるだろう」とする声明を出した。AFP通信が伝えた。
アル・シファ病院にいる医師によると、燃料や医薬品、電力の不足により、少なくとも3人の早産児を含む数十人が死亡したという。
病院の中庭には100体以上の遺体が埋葬されずに横たわっていると、医師たちはBBCに語った。また、すぐ近くで攻撃が起きているため、病院施設から離れようとしたり、敷地内の建物を行き来しようとしたりすることさえも、死の危険が伴うとした。
Reuters
アル・シファ病院の周辺で上がる黒煙(8日)
イスラエル軍、ガザの議会や行政施設を掌握と
イスラエル国防軍(IDF)は14日、ハマスが実効支配するガザ地区の議事堂や多数の行政施設を掌握したと発表した。
13日には、イスラエルの国旗を持った兵士たちが議事堂内にいるように見える画像がオンライン上に出回った。
IDFはガザ地区の行政施設や警察本部、兵器の製造・開発機関として機能していた工学施設も占拠したとしている。
さらに、軍事組織の訓練施設や作戦本部、尋問施設、収容施設なども掌握された。
Reuters
14日夜のブリーフィングに臨んだイスラエルのヨアヴ・ガラント国防相
イスラエルのヨアヴ・ガラント国防相は14日夜、ガザ地区北部で「ハマスが支配を喪失した」とし、同地区の議事堂にイスラエル兵が座っている光景は「非常に重要なこと」だと述べた。
「ハマスは支配を喪失した。事実、我々はガザ地区全域、同地区北部、とりわけガザ市を支配している」
この戦闘がいつまで続くのかとの質問については、「我々は1日や2日ではなく、数カ月にわたる長い期間の話をしている」とした。
一方、ハマス高官のバッセム・ナイム氏は、イスラエル側の発表は「勝利をでっち上げ、無人の場所や以前に標的とされ破壊された場所を想像上の支配下に置こうとする、あわれな試み」だと述べた。
避難民キャンプで豪雨
ガザ地区で取材するBBCのラシュディ記者は14日夜、避難者が集まる南部で非常に激しい雨が降っていると報告。数百人の避難者が病院の中庭に集まっているとした。
避難者の大半は地面で寝ており、テントを設置できている人はごくわずかだという。
避難者は食料や水を手に入れるのに苦労してきたが、いまはこの状況に適した衣服や、雨をしのぐ覆いを確保するのに苦しんでいると、ラシュディ記者は報告した。
ガザ避難民キャンプで豪雨、しのぐのに苦労 BBC記者報告
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雨の中たたずむ幼い男の子(ガザ地区南部)
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避難民キャンプのテントの下で雨宿りする子供たち(南部ラファ)
Reuters
イスラエル南部アシュケロンから撮影したガザ地区上空の稲妻
(英語記事 US says Hamas has command centre under Gaza hospital/Israeli soldiers 'storm' Gaza's biggest hospital)
関連トピックス 中東 イスラエルとパレスチナ イスラエル 外交 医療 人道支援 パレスチナ自治区 イスラエル・ガザ戦争 軍隊
―参考―
(BBC NEWS JAPAN)
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-67460398
【解説】 「病院にハマス司令本部」の証拠なければイスラエルへの停戦要求は増していく
2023年11月18日
Reuters
ガザ市内のアル・シファ病院内に入ったイスラエル兵の様子という、イスラエル国防軍(IDF)提供写真(15日)
イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ地区のガザ市にあるアル・シファ病院に入ってから、すでに数日がたった。17日の時点でイスラエル軍は、この病院がイスラム組織ハマスの重要な司令本部だったと示す証拠を、引き続き捜索している様子だ。
病院内の様子を第三者が客観的に点検できる状態ではないことを、留意する必要がある。報道陣はガザ地区内に自由に入ることができないし、現時点で病院内から報道している者はだれもがイスラエル軍の監督下にある。
イスラエルがこれまでに提示した証拠には、今のところ、病院についてイスラエルが展開していた言説を信じさせるだけの説得力が欠けていると私は思う。イスラエルはこれまで、アル・シファ病院がハマスの指揮系統の中心だと示唆していたが、イスラエルがすでに示した証拠はその説得材料になっていないと思う。
もし本当に病院内に指揮系統の中枢があったのなら(その可能性は2014年から取りざたされていた)、その存在についてイスラエルはこれまでのところ外の世界にその決定的な証拠を明らかにしていない。
見つかった中にあるのは、カラシニコフ・ライフルがいくつか(中東ではよく使われている)と、トンネルの入り口(ガザ地区にはたくさんある)、いくらかの軍服と、爆発物が仕掛けられた車両だった。
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もちろん、ハマスの大規模な司令本部とその証拠が今後、病院の下にみつかる可能性はまだある。
そもそもアル・シファ病院は、1970年代にガザ地区を完全占領していた当時のイスラエルが建てたものだ。その規模からして、徹底的に調べるには時間がかかる。
しかし、アル・シファを設計したイスラエルの建築士たちが、広い地下室を病院施設に含めたことは、よく知られている。
ガザ最大病院の内部、BBC記者が取材 イスラエル軍に同行
アル・シファ次第で大きく変わる
イスラエル軍がすでに何かを発見したけれども、(軍事上あるいは安全上の)理由が何かしらあって、まだ公表しないことにしたのだという可能性も、もちろんある。
何か見つけている場合、なぜ公表しないのかは、はっきりしない。アル・シファ次第で、イスラエルの状況は大きく変わるからだ。
ハマスによる奇襲攻撃で今回の戦争が10月7日に始まり、ハマスがイスラエルの民間人を中心に約1200人を殺害して以来、イスラエルはこのアル・シファ病院にたどり着くことが、主要な目的のひとつだとしてきた。
【解説】 戦争のルールは病院を守るのか イスラエルの主張と義務は
ハマスがガザ地区の医療施設を作戦行動の隠れ蓑(みの)にしていると立証することが、イスラエルにとって重要な目的だ。そしてハマスはそうしたイスラエル側の主張を、再三否定してきた。
ハマスが運営するガザ地区の保健省によると、イスラエル軍は1カ月余りで1万1500人以上を同地区で殺害してきた。これほど大勢を殺したことを正当化するため、ハマスは民間人を人間の盾にしているのだとイスラエルは主張してきた。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は16日夜のインタビューで、ハマスは病院に軍事司令本部を置いていると主張した。
首相はさらに、アル・シファ病院の近くの民家でイスラエル人の人質が遺体となって見つかったことから、人質も病院で捕らわれているのだという「強い兆候」があるとも述べた。イスラエル軍は、ガザ境界に近いベエリの自宅から拉致されたエフディト・ワイスさん(65)の遺体が発見されたとしている。
ガザ地区内でハマスが人質にするイスラエル人200人以上の解放について、カタールを介した交渉は続いている。
しかし、アル・シファにしろ別の場所にしろ、ハマス司令本部の存在を示す確たる証拠が見つからなければ、停戦交渉をイスラエルに求める国際社会の圧力は増大する。
ここ42日の間にイスラエルはガザ地区であまりに多くの民間人を殺した。そのためアメリカ国内でも、イスラエルの手法について懸念がたかまっている。そしてイスラエルが本当の意味で気にする主要国は、アメリカだけだ。
アメリカのジョー・バイデン大統領は当初から、イスラエルには自衛権があるものの、その行使は正しい方法でなくてはならないと述べた。正しい方法とはつまり、戦争法に従うことを意味する。
【解説】 イスラエルとハマスの行動、戦時国際法の上ではどうなのか?
15日には国連安全保障理事会が、「人道的休止」の延長を求める決議案を採択した。アメリカは拒否権を行使しなかった。
これは重要な展開だった。ガザ情勢についてハマス非難を含まない決議案に、アメリカとイギリスが初めて、拒否権を使わなかったのだ。
「さらにテロを醸成」
加えて興味深い展開のひとつとして、世界各国の元首脳たちからなる非政府組織(NGO)「長老たち(The Elders)」が、ハマスを非難しつつ、「ガザを破壊し民間人を殺すことは、イスラエルの安全を増すことにつながらない」とする声明を発表した。
「長老たち」は、イスラエルのこうした行動が「中東内外でさらにテロリズムを醸成することになる。この紛争は軍事的手段では解決できない」とも述べた。「長老たち」は、ジミー・カーター元米大統領や南アフリカのネルソン・マンデラ元大統領らが2007年に結成した。
つまり、停戦要求の圧力はひたすら高まり続けているし、イスラエルはそれを承知している。イスラエルの戦略を疑問視する声が高まる中で、その圧力はいっそう強くなる。
そうそう簡単に終わる状況ではない。「やるべきことはやったのでガザを後にできる」とイスラエルが言えるような、明確な区切りとなる瞬間は今後ないだろうと私は思っている。
そして、その翌日からどうするのかという計画も、イスラエル政府にはないようだ。ネタニヤフ氏は、「テロの再浮上」を阻止するためガザ地区の治安維持にイスラエルはしばらく責任を負うのだろうとしか言及していない。
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アル・シファ病院にとどまる患者と避難者(10日)
とてつもない規模の殺害と破壊を経験したガザ地区で、イスラエルが何をするにしても、自分たちを憎悪する200万人以上に対応しなくてはならない。イスラエルがどれだけガザ地区にとどまるかによっては、反乱が起きる可能性もある。
そのためイスラエルにとっては、1万人以上の民間人を殺したやり方しか、自分たちにはほかにやりようがなかったのだと証明するのは不可欠だ。停戦を求める国際的な圧力から、支援国がイスラエルを守り続けるためには。
(英語記事 Bowen: Ceasefire demands will grow without proof of Hamas HQ at Al-Shifa)
関連トピックス 中東 イスラエルとパレスチナ イスラエル 人権 医療 人道支援 パレスチナ自治区 ハマス イスラエル・ガザ戦争 軍隊 子供
―参考―
- 【解説】 イスラエル軍のガザ最大病院突入 支援国の立場に変化 (BBC NEWS JAPAN) [2023.11.18]
(Pars Today)
https://parstoday.ir/ja/news/middle_east-i120960
視点
西側・イスラエル言説の敗北
11月 25, 2023 20:26 Asia/Tokyo
パレスチナ支持
10月7日にパレスチナ・イスラム抵抗運動ハマスが「アクサーの嵐」作戦を実行して以降、ネタニヤフ首相を筆頭とするシオニスト政権イスラエルは、ハマスを壊滅させるまで戦争を継続すると約束していました。
そして、50日間におよぶ前例のない規模のガザ攻撃を開始し、多数のパレスチナ人を殺害したほか、地上戦まで展開しました。しかし、イスラエル軍は当初の目的を達成できず、自らも多大な人的・物的被害を被り、国際社会からの圧力にもさらされ、ハマスとの4日間の停戦および人質交換に応じざるを得なくなりました。
アクサーの嵐作戦直後は、イスラエルを被害者として演出する報道が西側メディアを席巻していましたが、今やその影は後退し、イスラエルがパレスチナとの「2カ国共存」を妨げているとする論調に変わりつつあります。
重要なのは、米英仏独各首脳に代表される西側諸国がイスラエルによるガザでの戦争犯罪を「自衛権」として支持した一方で、イスラエルによる「2カ国共存」の妨害の事実を認め、その履行を求める発言もしていることです。イスラエルの歴代政権はこの「2カ国共存」に程度の差はあるものの反対してきました。しかし、今年1月に発足したネタニヤフ政権はその反対の度合いを強め、パレスチナ人の追放・虐殺を公言する閣僚まで出ているほどです。こうした姿勢が、西側諸国を困惑させ、そのイスラエル擁護が限界に達する要因となりました。
いま、各国が国連とともに「2カ国共存」の実施を求め、スペインやベルギーといった欧州諸国からもパレスチナ国家の正式承認を検討する声が出始めています。
パレスチナ支持・イスラエル非難の声は世界中を覆っているようにみえます。世界秩序の変化と多極化にともない、パレスチナに関する西側・イスラエル言説はその居場所を失い、パレスチナの国家樹立の必要性をうたう声がとって代わりつつあります。
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タグ シオニスト政権イスラエル イスラエル パレスチナ パレスチナ人に対するイスラエルの犯罪 イスラエルのガザ攻撃 西側
―参考―
- アラブとイスラム諸国の首脳ら、西側を非難 ガザの惨状めぐり (BBC NEWS JAPAN) [2023.11.17]
- 南ア、イスラエルの「アパルトヘイト政権」認定を要請 (Pars Today)[2023.11.25]
(BBC NEWS JAPAN)
https://www.bbc.com/japanese/67493683
人質一部解放と4日間の戦闘休止へ イスラエルがハマスとの合意案を承認
2023年11月22日
Reuters
人質の解放を求めるデモ参加者ら(イスラエル・テルアヴィヴ、21日)
イスラエル政府は22日、パレスチナ自治区ガザ地区でイスラム組織ハマスに拘束されている人質の解放に関する、ハマスとの合意案を承認した。少なくとも人質50人が解放され、戦闘が4日間休止される見通し。イスラエルは休止後に戦闘を続けるとしている。
イスラエルの首相官邸は声明を発表。少なくとも50人の人質(女性と子供)が4日間にわたって解放され、その間に戦闘が休止されるとした。
また、追加で人質10人が解放されるごとに、戦闘休止が1日延長されるとした。
その上で、「イスラエル政府、IDF(イスラエル軍)、治安部隊は、人質全員を帰還させ、ハマス壊滅を完了させ、ガザからイスラエルへの新たな脅威がなくなることを確実にするため、戦闘を継続する」とした。
一方のハマスは、今回の合意によってイスラエル側に収容されているパレスチナ人150人が解放されると発表した。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、イスラエルではパレスチナ人約7000人が拘束されている。うち約200人は女性、約60人は子どもだという。
イスラエルはその後、合意に基づいて解放される可能性があるとするパレスチナ人300人の氏名、年齢などを記したリストを司法省のウェブサイトで公表した。
ハマス壊滅作戦はやめない
合意案の承認に先立ち、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は21日、たとえ人質の解放が実現してもハマスへの攻撃はやめないと表明した。
ネタニヤフ氏は同日夜、戦時内閣や全閣僚による会議を開催。首相官邸は「人質解放問題の進展に鑑みたもの」と説明した。
人質解放に関する合意案を実施に移すには、ネタニヤフ氏がこの夜に協議する3グループすべての承認が必要だった。
ネタニヤフ氏は閣議の前に録画されたビデオ声明で、人質が解放されればハマスとの戦争が停止になるといった話は「ナンセンス」だと説明。「すべての目標を達成するまで」戦争は続けると述べた。
また、人質の帰還は「神聖かつ最高の目標」だとした。
さらに、「戦争では段階があり、人質の帰還にも段階がある。しかし私たちは完全に勝利し、人質全員を帰還させるまでやめない」、「それが私たち全員の神聖なる義務だ」と主張。
ハマスの排除も目標の一つであり、「ガザにイスラエルを脅かすものは何もなくなる」とした。
イスラエルの内閣は38人の異なる政党のメンバーで構成されている。極右政党は人質解放の合意案を強く批判していた。
ベザレル・スモトリッチ財務相も、閣議前の声明で合意案について、「イスラエルの安全保障にとっても、人質にとっても、イスラエル軍の兵士にとっても悪いものだ」と述べた。
現地メディアは、取引に賛成する政党もある一方、態度を明らかにしていない政党もあると報じた。
イスラエルの激しい攻撃続く
人質解放と戦闘休止をめぐる交渉が続けられる間も、戦闘や空爆は続いた。
イスラエル軍は21日、ガザ北部の都市ジャバリアを包囲したと発表した。ジャバリアはガザ市の北に位置し、激しい戦闘が繰り広げられてきた。
イスラエル軍はまた、戦闘機と「遠隔有人操縦機」を使って、この1日でハマスの標的250カ所を攻撃したと説明。ジャバリア地域のトンネルの縦穴3カ所も含まれ、それらの場所ではハマス戦闘員数十人を殺害したとした。
Reuters
イスラエル軍の空爆を受けたガザ地区北部ジャバリア(21日)
<関連記事>
イスラエル軍はさらに、ガザ南部でのハマスに対する作戦の強化を予定しているとした。南部には北部から多くの民間人が避難している。
ハマスが運営するガザ地区当局は21日、今回の戦争が始まってから地区内で殺害された人が1万4128人に上ったと発表した。 うち5840人は子どもだとした。
レバノンにも攻撃、4人死亡
イスラエル軍は21日、レバノンとの国境付近でも作戦を実施した。同国メディアは、イスラエル軍の攻撃でジャーナリスト2人を含む4人が殺害されたと伝えた。
レバノンのナジブ・ミカティ首相は、テイル・ハルファ村が「攻撃」されたと非難した。この攻撃では、放送局アル・マヤディーンの記者とカメラマン、別の男性一人が死亡したとされる。
イスラエル軍は、同村がある地域で「脅威に対する作戦を実施した」と発表した。
一方、同村の東のクファルケラでも高齢女性が殺害されたと報じられている。
国連職員らにさらなる死者
世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は21日、ガザで職員の1人が殺害されたとX(旧ツイッター)で発表した。
職員のディマ・アルハジ氏は、生後6カ月の赤ちゃんと夫、きょうだい2人とともに、家に避難していたところを殺害されたという。
テドロス氏は、「私たちの悲しみは言葉で言い表せない」、「この恐怖は終わりにしなければならない」とした。
一方、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のフィリップ・ラザリーニ事務局長は同日、イスラエルがガザで作戦を開始して以来、同機関の職員108人が殺害されたと話した。
「私たちが得た情報では、ほとんどは子どもを含む家族とともに殺された」とラザリーニ氏は話した。
ラザリーニ氏はまた、UNRWAの施設67カ所近くが攻撃され、うち17カ所は直接攻撃を受けたと語った。その上で、「ほとんどは安全が約束されていた(ガザ地区の)中部と南部にあったものだった」とし、「私たちは国連の旗の下で人々を守ることすらできない」と述べた。
国境なき医師団(MSF)によると、ガザ北部で機能している数少ない医療施設のアル・アワダ病院が攻撃され、MSFの医師2人と、別の医師1人が殺されたという。
MSFは声明で、200人の患者を治療している同病院の3階と4階が攻撃されたとした。MSF関係者を含む医療スタッフらが重傷を負ったという。
(英語記事 LIVE Israel's cabinet approves deal to release hostages during pause in fighting/Lebanon PM says Israeli strikes killed journalists)
関連トピックス 中東 イスラエルとパレスチナ イスラエル 国連 医療 人道支援 パレスチナ自治区 ハマス イスラエル・ガザ戦争 世界保健機関(WHO) 軍隊
―参考―
- イスラエルで「人質解放の優先」求めるデモ行進 家族ら首相公邸前でも抗議 (BBC NEWS JAPAN) [2023.11.19]
- ハマス、人質24人を解放 イスラエルはパレスチナ人39人を釈放 (BBC NEWS JAPAN) [2023.11.25]
- 人質の第2陣17人をハマスが解放、イスラエルも39人釈放 戦闘休止2日目 (BBC NEWS JAPAN) [2023.11.26]
- ハマスが人質の第3陣17人を解放、イスラエルは39人釈放 双方が戦闘休止の延長示唆 (BBC NEWS JAPAN) [2023.11.27]
- 戦闘休止の2日間延長で合意、カタール発表 双方の第4陣が帰還 (BBC NEWS JAPAN) [2023.11.28]
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- 戦闘休止の1日再延長で合意 新たに16人の人質解放、パレスチナ人も30人釈放 (BBC NEWS JAPAN) [2023.11.30]
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- ガザで戦闘再開、イスラエルが発表 戦闘休止を延長できず (BBC NEWS JAPAN) [2023.12.1]
- 戦闘再開1日でガザの死者178人、「延長交渉が決裂」と情報筋 イスラエル人人質6人の死亡確認 (BBC NEWS JAPAN) [2023.12.2]
(投稿者より)
犠牲になられた方々の御冥福をお祈り致します。また、現地に早く平和が戻りますよう願っております。
交換される人質の数に着目したコメントをSNSでいくつか目にしました。過去にはイスラエル人1000人に対してパレスチナ人1人ということも有ったようですが、今回BBCは比率が判るようきちんと書いています。1つの目安として見ることは出来るかも知れません。