NPT(核兵器不拡散条約)運用検討会議における岸田内閣総理大臣一般討論演説(首相官邸)/信頼なくして、核軍縮なし(Sputnik日本)

NPT(核兵器不拡散条約)運用検討会議における岸田内閣総理大臣一般討論演説(首相官邸)/信頼なくして、核軍縮なし(Sputnik日本)









首相官邸

https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2022/0801enzetsu.html





NPT(核兵器不拡散条約)運用検討会議における岸田内閣総理大臣一般討論演説





更新日:令和4年8月1日





総理の演説・記者会見など






スラウビネン議長、私は、今回のNPT(核兵器不拡散条約)運用検討会議に強い危機感を持って、やって参りました。



外務大臣として参加した2015年会議の決裂以降、国際社会の分断は更に深まっています。特に、ロシアによるウクライナ侵略の中で核による威嚇が行われ、核兵器の惨禍が再び繰り返されるのではないかと世界が深刻に懸念しています。



核兵器のない世界」への道のりは一層厳しくなっていると言わざるを得ません。



しかし、諦めるわけにはいきません。被爆地広島出身の総理大臣として、いかに道のりが厳しいものであったとしても、「核兵器のない世界」に向け、現実的な歩みを一歩ずつ進めていかなくてはならないと考えます。



そして、その原点こそがNPTなのです。



NPTは、軍縮・不拡散体制の礎石として、国際社会の平和と安全の維持をもたらしてきました。NPT体制を維持・強化することは、国際社会全体にとっての利益です。この会議が意義ある成果を収めるため、協力しようではありませんか。我が国は、ここにいる皆様と共に、NPTの守護者として、NPTをしっかりと守り抜いてまいります。



核兵器のない世界」という「理想」と「厳しい安全保障環境」という「現実」を結びつけるための現実的なロードマップの第一歩として、核リスク低減に取り組みつつ、次の5つの行動を基礎とする「ヒロシマ・アクション・プラン」にまずは取り組んでいきます。



まず、核兵器不使用の継続の重要性を共有すべきであることを訴えます。ロシアの行ったような核兵器による威嚇、ましてや使用はあってはなりません。長崎を最後の被爆地にしなければなりません。



次に、透明性の向上です。これは、あらゆる核軍縮措置の基礎です。核兵器国に対し、核戦力の透明性の向上を呼びかけます。とりわけ、核兵器核分裂性物質の生産状況に関する情報開示を求めます。これはFMCT(核兵器核分裂性物質生産禁止条約)の交渉開始に向けたモメンタムを得る上で重要な一歩であると考えます。



第三に、核兵器数の減少傾向を維持することです。世界の核兵器数は、冷戦期のピークから大きく減少しましたが、今なお1万数千発の核兵器が残されています。「核兵器のない世界」に歩みを進める上で、この減少傾向を継続することは極めて重要です。



核兵器国の責任ある関与を求めます。この観点から、一層の削減に向けた米露間の対話を支持し、また、核軍縮・軍備管理に関する米中間での対話を後押しします。



CTBT(包括的核実験禁止条約)やFMCTの議論を、今一度呼び戻します。CTBTの発効を促進する機運を醸成すべく、9月の国連総会に合わせて、私は、CTBTフレンズ会合を首脳級で主催します。また、FMCTの交渉の早期開始を改めて呼びかけます。



第四に、核兵器の不拡散を確かなものとし、その上で、原子力の平和的利用を促進していくことです。



北朝鮮による新たな核実験が行われる懸念もある中、日本は、国際社会と協力して、北朝鮮の核・ミサイル問題に取り組んでいきます。また、イラン核合意の遵守も実現されておらず、日本は、対話の進展に向けて積極的に貢献していきます。



原子力の平和的利用は、原子力安全と共に進めるべきものです。この度のロシアによる原子力関連施設への攻撃は決して許されるものではありません。日本は、2011年の事故の教訓を基に、被災地復興や廃炉に関連する様々な課題に取り組みます。国際原子力機関始め国際社会と協力し、内外の安全性基準に従った透明な取組を進めます。



第五に、各国の指導者等による被爆地訪問の促進を通じ、被爆の実相に対する正確な認識を世界に広げていきます。この観点から、グテーレス国連事務総長が8月6日に広島を訪問することを歓迎します。



また、国連に1千万ドルを拠出して「ユース非核リーダー基金」を設け、未来のリーダーを日本に招き、被爆の実相に触れてもらい、核廃絶に向けた若い世代のグローバルなネットワークを作っていきます。



核兵器のない世界」に向けた国際的な機運を高めるため、各国の現・元政治リーダーの関与も得ながら、「国際賢人会議」の第一回会合を11月23日に広島で開催します。



また、2023年には被爆地である広島でG7サミットを開催します。広島の地から、核兵器の惨禍を二度と起こさないとの力強いコミットメントを世界に示したいと思います。



私は一羽の折り鶴を折って、ここに持ってまいりました。広島平和記念公園の「原爆の子の像」のモデルになった佐々木禎子(さだこ)さんが折り続けた折り鶴は、今や世界中で平和と「核兵器のない世界」を祈る象徴となっています。志を同じくする世界中の皆様と共に「核兵器のない世界」に向けて歩みを進めてまいります。



ありがとうございました。





















(Sputnik日本)

https://jp.sputniknews.com/20220808/12370198.html





信頼なくして、核軍縮なし





2022年8月8日, 07:09







© AP Photo / Rodrigo Reyes Marin





ドミトリー ヴェルホトゥロフ






2022年8月1日、日本の岸田首相は第10回核不拡散条約(NPT)再検討会議で演説し、核廃絶に向けた計画の新バージョンを表明した。岸田首相が提唱したのは5項目のプログラムで、「国際平和拠点ひろしま(Hiroshima for Global Peace)」が実施する行動計画と呼応する。「国際平和拠点ひろしま」とは、国家元首や政治家、影響力のある活動家に広島を訪れてもらい、原爆の被害を見た上でイニシアチブに賛同してもらうための活動をしている団体だ。しかし、現状では岸田首相の計画が成功し、何かをもたらすとは考えにくい。





信頼がない



その最初にして最大の理由は次の通りだ。核軍縮には、核兵器を放棄する各国の間に深い信頼関係が必要になる。その信頼の度合いは、深刻な対立が起こりうる危険性を完全に排除できるほどに高くなければならない。武力紛争などもってのほかだ。その条件が揃ったときにはじめて、核兵器は無用の長物になるのである。



しかし今、その信頼はない。アメリカや同盟国は常に嘘、誹謗中傷、ダブルスタンダード、差別的措置を続けており、同国への信頼は完全に失墜している。例を挙げればキリがない。



直近の例を1つだけ挙げよう。前述のNPT再検討会議の演説で岸田首相は「この度のロシアによる原子力関連施設への攻撃は決して許されるものではありません」と述べた。







岸田首相、NPT会議出席へ 日本の首相として初

7月29日, 14:26






しかし、ザポロジエ原子力発電所は2022年3月2日にロシア軍部隊が制圧している。ウクライナの破壊活動グループは、3月4日未明にロシアのパトロール部隊を攻撃し、原発の管理棟に火をつけた。そのとき、ウクライナのゼレンスキー大統領はロシアが戦車を使って攻撃したとまで言い、ロシアを非難した。この非難に対しては、ロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使が国連安保理で反論している。この挑発行為があって以降、ザポロジエ原発はロシア親衛隊の警備下におかれることになった。ロシア親衛隊は原発の敷地と原子炉建屋で機関銃やグレネードランチャー500丁以上の武器のほか、大量の弾薬やトーチカを発見した。つまり、ウクライナ軍は原発をめぐる戦闘の準備をしていたということで、核の安全性などそっちのけだったのである。



さらに、ウクライナの部隊は2022年7月18日に無人機スイッチブレード3機を使ってザポロジエ原発を攻撃した。ウクライナの放ったこの無人機は使用済み核燃料貯蔵施設と冷却水プールから数十メートルの地点で爆発した。ウクライナの部隊は7月20日にも4機の無人機を使って再びザポロジエ原発を攻撃した。幸い、原発の施設に深刻な損傷はなかった。







ドンバスの解放を賭けた特殊軍事作戦

国連事務局 政治的理由でIAEA使節団をザポリージャ原発に派遣することを阻止=ロシア外務省

8月2日, 22:01






つまり、岸田首相は演説の中で、ザポロジエ原発をめぐる状況を大きく歪曲したことになる。このように事実の歪曲が許されるようでは、核軍縮に必要な信頼などあり得ない。何より驚くのは、このようにロシアを誹謗中傷しておきながら、岸田首相は自身のイニシアチブに対するロシアの好意的な反応を期待していることである。





原子力技術へのアクセスを操作



岸田首相は計画の中で、原子力の平和利用に言及した。5項目のうち、4つめの項目だ。このなかで岸田首相は、北朝鮮が核ミサイル計画を国際社会と調整するようを提唱している。



これに関連して思い出されるのが、北朝鮮のNPT脱退につながった出来事だ。1994年10月、アメリカと北朝鮮は、北朝鮮が軍事目的の核計画を停止する代わりに、アメリカが重油の供給と1000メガワットの原子炉2基の建設を約束する「枠組み協定」を締結した。岸田首相が提唱しているのは、まさにこれと同じことである。



北朝鮮の原子炉は結局、建設されなかった。アメリカは新たな要求を次から次へと突きつけ、北朝鮮がウラン濃縮をしていると非難して発電用の重油の供給を止めた。これを受け、2002年12月に北朝鮮は核計画を再開。2003年1月に正式にNPTから脱退した。







北朝鮮はいつでも核実験の実施が可能=韓国大統領

7月22日, 15:50






NPT第4条で保証された北朝鮮原子力平和利用の権利は、国際社会が承認する形で見事に侵害されたのである。北朝鮮はNPTを拒否し、本格的な核ミサイル兵器を独自で開発できることを示した。



さらに、NPTは事実上、役に立たない紙切れと化している。インド、パキスタン、おそらくイスラエルもそうだが、複数の国がNPTを回避して核兵器保有している。これらの国々はNPTへの署名を拒否しているが、何のペナルティもない。イスラエルはこのほか、他国の原子力開発も妨害している。イスラエル空軍は1981年7月7日にイラクの原子炉を空爆し、2007年9月6日にはシリアで原子炉とみられる核施設を破壊した。ふたつ目の攻撃に国際的な反響はまったくなかった。







世界の核弾頭保有総数、ほぼ1万3千個に=米国科学者連盟

8月2日, 18:50






申し訳ないが、岸田首相の提案はもはや通用しない。「平和な原子力」と「軍事用の核」を区別することは技術的に不可能である。核分裂性物質の製造・濃縮技術を手にした国は、原子力発電所を建設することもできれば、核兵器をつくることもできる。このような状況は、原子力技術へのアクセスを恣意的に操作し、特定の国を差別することにつながる。実際、原子力発電技術を含め、原子力技術へのアクセスはアメリカとその同盟国への政治的忠誠が条件となっているのが実情だ。しかし、これはもはやNPTではなく、一方的な独断である。



こうしたことから、岸田首相のイニシアチブは成果をもたらさないと見てよいだろう。核兵器は、これまでも、そしてこれからも、国家の主権—原子力の平和利用の権利を含め—を守るための最終兵器であり続ける。





オピニオン 核兵器 岸田文雄