「インド太平洋経済枠組み(IPEF)の発足をめぐって」(在日米国大使館・中華人民共和国駐日本国大使館・人民網中国語版・Sputnik日本)
(在日米国大使館)
https://jp.usembassy.gov/ja/fact-sheet-indo-pacific-economic-framework-for-prosperity-ja/
ファクトシート:バイデン大統領とインド太平洋地域のパートナー12カ国が、繁栄のためのインド太平洋経済枠組み(IPEF)を立ち上げ
著 U.S. Mission Japan
May 24, 2022
2022年5月23日
*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。
IPEFは、技術革新と世界経済の今後数十年を決定するこの重要な地域における我々の連携を強化する。
この枠組みは、米国とインド太平洋地域の家族、労働者、企業のため、より強固でより公平、そしてより強靭な経済を創出する。
###
本日、バイデン大統領は日本の東京で、次の12カ国の初期パートナーとともに、繁栄のためのインド太平洋経済枠組み(IPEF)を立ち上げると表明した。オーストラリア、ブルネイ、インド、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、タイ、そしてベトナムが参加する。全参加国で世界のGDPの40%を占める。
米国はインド太平洋地域の経済大国であり、この地域における米国の経済的リーダーシップを拡大することは、米国の労働者や企業にとって、またこの地域の人々にとって利益となる。IPEFは、米国の労働者、中小企業、そして農場経営者が、インド太平洋で確実に競争できるよう、米国とその同盟国のルール決定を可能にするものである。大統領が述べているように、インフレへの対処は経済の最優先事項であり、この枠組みは、長期的に我々のサプライチェーンの強靭性をさらに高め、消費者にとって価格上昇につながるコスト高の混乱から我々を保護し、コスト削減に貢献する。
この地域における米国の海外直接投資総額は2020年に9690億ドルを超え、過去10年間でほぼ倍増した。また、米国はこの地域への最大のサービス輸出国で、地域の成長を後押ししている。インド太平洋地域との貿易は、300万以上の米国人の雇用を支えるほか、米国への9000億ドル近い海外直接投資の源泉となっている。世界人口の6割を占めるインド太平洋地域は、今後30年間、世界の成長に最も貢献する地域と予測される。
米国とこの地域のパートナーは、今後数十年における成功の多くは、各国政府がいかにしてイノベーション、特にクリーンエネルギー、デジタル、テクノロジー分野で進行中の変革を活用し、脆弱なサプライチェーン、汚職、タックスヘイブンなどのさまざまな脅威に対して経済を強化できるかにかかっていると考えている。これまでの経済活動モデルは、こうした課題に対処せず、労働者、企業、消費者を脆弱なままにしてきた。この枠組みは、次の4つの主要な柱に焦点を当て、この地域における我々の経済的関与を深める高水準のコミットメントを確立する。
ニュース, 世界的な問題, 注意・警告危険情報, 米国大統領
―参考―
(中華人民共和国駐日本国大使館)
http://jp.china-embassy.gov.cn/jpn/dsgxx/202205/t20220524_10691717.htm
駐日中国大使館報道官、日米首脳会談で中国に関しネガティブな動きに対し厳正な立場を表明
2022-05-24 09:18
問:23日、日米指導者は会談を行い、共同声明を発表し、何度も中国に言及し、ネガティブな言論を発し、中国を非難した。これについてコメントは。
答:日米指導者の会談と日米共同声明は悪意をもって中国に関する議題をもてあそび、中国をゆえなく非難し、中国の内政に乱暴に干渉し、国際法と国際関係の基本準則に重大に違反し、中国の主権、安全、発展の利益を重大に損なっており、中国は強い不満と断固とした反対を表明する。
現在、百年に一度の変局と世紀の感染症が交錯し、国際社会が最も必要としているのは団結と協力で、地域が最も期待しているのは平和と安定である。しかし今回のバイデン訪日でわれわれが見せられたのは、日米が「自由で開かれたインド太平洋」の旗印を掲げながら、実際には分裂をつくり出し、対抗をあおり、閉鎖的排他的小さなグループをつくるというものだ。これは時代の潮流に逆行し、地域諸国の全体的に利益を損なうもので、決して先へ進まないし、実現もしない。中国は日米がゼロサムゲームや陣営対抗に執着するのをやめ、他国の安全を犠牲にして自らの安全を追求するのをやめ、時代遅れの冷戦のシナリオをアジア太平洋で再演するのをやめるよう促す。
中国は常に世界平和の建設者、グローバル発展の貢献者、国際秩序の擁護者で、平和を愛し、発展を図るすべての国と共に団結・協力を強化し、手を携えて挑戦〈試練〉に対応し、グローバル発展イニシアチブとグローバル安全保障イニシアチブの実行を推進し、人類運命共同体を構築することを願っている。同時に中国はいかなる国でも中国の内政に干渉し、中国の利益を損ない、中国のイメージを汚すことを決して許さない。自らの主権、安全、発展の利益を断固守る。
現在、中日関係は重要な岐路にある。中国は日本が中国に対するマインドを正し、戦略方向を正し、対中・対米関係をバランスよく処理し、建設的、安定的対中関係を築く態度表明を実行に移し、他人のために火中の栗をひろうのをやめ、災いを人に押しつける道を進まないよう促す。
問:日米指導者の共同声明は台湾海峡の平和と安定が国際社会の安全と繁栄にとって不可欠とし、両岸問題の平和解決を奨励している。米国指導者は記者会見で質問に答え「大陸が武力で台湾を奪い取る行為に同意できない」と述べた。これについてコメントは。
答:台湾は中国の領土の不可分の一部である。台湾問題は中国の主権と領土保全に関わるものである。中国の核心の利益に関わることに外部勢力のいかなる干渉も容認しない。台湾カードを切って「台湾で中国を抑え込む」悪質ないかなる行為も中国は必ず断固とした強力な反応をするだろう。いかなる者も中国人民の国家主権と領土保全を守る強い決意、固い意志、強大な能力を見くびってはならないし、14億中国人民と対立する側に立ってはならない。
現在の台湾海峡情勢緊張の根源は台湾民進党当局が一つの中国の原則を体現する「92共通認識(コンセンサス)」を認めることを拒否し、外部勢力と結託して「独立をたくらむ」挑発を続けていることにある。われわれは最大限の努力で平和統一の前途を目指すが、いかなる形でも「台湾独立」分離活動を決して許さない。われわれは米国が一つの中国の原則と中米間の三つの共同コミュニケの規定を確実に守り、台湾問題について言動を慎重にし、「台湾独立」分離勢力に誤ったシグナルを送らず、中米関係と台湾海峡の平和・安定を重大に損なうのを回避するよう促す。
台湾問題は中日関係の政治的基礎と両国間の基本的信義に関わるもので、是非に関わる原則問題である。台湾問題を適切に処理することは中日国交正常化の前提であり、基礎である。中国は日本が歴史を深く反省し、中日間の四つの政治文書の精神とこれまでの約束を守り、言動を確実に慎重にし、挑発やトラブルをやめるよう促す。
問:日米双方は共同声明の中で釣魚島について日米安保条約を適用するとし、中国は東海、南海で力によって現状を変更していると述べていることについてコメントは。
答:釣魚島とその付属の島しょは中国固有の領土で、日米双方が何を言おうと、何をしようと、釣魚島が中国に属すという事実を変えることはできない。日本は中日間の四つの原則と共通認識の精神に背き、絶えずトラブルを引き起こしており、これこそが東海情勢の緊張の原因である。中国は日本が事態の複雑化を招く動きをやめ、中日間の四つの原則と共通認識の精神に確実に従い、対話を通じ矛盾と意見の相違を適切にコントロールし、東海情勢の安定を共に維持するよう厳粛に促す。
中国の南海における領土主権と海洋権益には十分な歴史的、法律的根拠があり、国際法と国際慣行に合致している。中国は領土主権と海洋権益を断固守り、同時に東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国との「南海行動規範」協議推進に尽力し、南海情勢の全体的安定を共に維持するため尽力している。日米は頻繁に南海問題をあおり、火をつけ、軍艦・軍機を派遣し、南海でトラブルを起こし、挑発しており、これこそが地域の平和と安定に対する真の脅威である。中国は日米が地域諸国の地域の安定を守る努力を尊重し、南海問題で紛争を引き起こすのをやめるよう要求する。
問:バイデン米大統領は訪日中に「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の開始を発表し、日本が参加の立場を表明した。これについてコメントは。
答:中国は一貫して次のように考えている。地域協力のいかなる枠組みも自由貿易を推進すべきで、形を変えた保護主義をやるべきではない。世界経済の回復に役立つものであるべきで、産業チェーンの安定を壊すものであってはならない。開放と協力を促進すべきで、地政学的対抗をつくり出すべきではない。米国のいわゆるIPEFが別のものをつくり、別のやり方を取り、現行の地域協力枠組みに打撃を与え、経済問題を政治化、武器化、イデオロギー化し、アジア太平洋地域で分裂・対抗をつくり出し、それによって中国を孤立させ、排斥するなら、必ず失敗する。
中国はアジア太平洋地域協力の提唱者、推進者、擁護者で、われわれは引き続き地域各国と共に地域の平和・安定、団結・協力を促進し、地域の発展・繁栄を共に後押しする。
問:日米指導者の共同声明は中国が核能力を強化していることに留意しているとし、中国が措置を取り、核のリスクを減らし、透明性を高め、核軍縮を推進するよう要求した。これについてコメントは。
答:日米が「拡大抑止」強化を言いながら、中国の核政策についてとやかく言うのは完全に責任転嫁であり、視線をそらせるためだ。
中国は自衛防御の核戦略を揺るぎなく実行し、常に核戦力を国の安全保障に必要最低限に維持し、中国の核政策自体が国際核軍縮プロセスの推進と核リスク削減の努力に対する重要な貢献である。米国は自らの核軍縮の義務を真剣に果たさず、アジア太平洋地域で地上発射型中距離弾道ミサイル配備や原子力潜水艦売却を図っており、関係の行動は核不拡散体制を重大に脅かすものである。日本は長年にわたり実際の必要を上回るセンシティブ核物質を貯蔵し、米国の「核の傘」を享受するため米国の核兵器先制不使用政策を懸命に妨害している。われわれは日米に対し二重基準をやめ、責任ある態度で国際的懸念にこたえ、実際の行動で国際社会の信頼を得るよう忠告する。
(人民網日本語版)
http://j.people.com.cn/n3/2022/0525/c94476-10101362.html
インド太平洋地域の新たな経済枠組み始動 中国にとって脅威?
人民網日本語版 2022年05月25日16:32
米国のバイデン大統領はこのほど、インド太平洋地域の新たな経済枠組み(IPEF)を始動し、アナリストは「これは本質的には米国が中国に対して経済競争を展開するためのツールだ」との見方を示した。
IPEFは中国にとって非常に大きな脅威になるだろうか。必ずしもそうなるとは限らない。
IPEFの参加国はASEAN諸国が圧倒的多数を占める。政府の公式データによれば、新型コロナウイルス感染症の流行中に中国-ASEAN間貿易は流れに逆らって増加した。2021年の貿易額は前年比28.1%増の8782億ドル(1ドルは約127.0円))に達し、そのうち中国の対ASEAN輸出は同26.1%増の4836億9千万ドル、ASEANからの輸入は同30.8%増の3945億1千万ドルだった。現在、ASEANは中国にとって引き続き1番目の貿易パートナーだ。
中国社会科学院アジア太平洋・グローバル戦略研究院の許利平研究員は、「事実が証明するように、中国・ASEAN間協力には非常に高い強靱性とポテンシャルがある。地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が発効して、双方の協力のポテンシャルはこれからさらに発揮され、より多くのニーズと市場を活性化すると予想される。排他性を出発点とするIPEFは、地域一体化およびグローバル化の大きな流れと一致しないことは明白であり、地域に持続的なボーナスをもたらすことは難しく、効果的に推進するのが難しいことは確実だ」との見方を示した。
許氏は、「IPEFはASEANを中国包囲の突破口にすることを企図するが、最終的に当てが外れる可能性が非常に高い」と述べた。
別のアナリストも、「ASEAN諸国にとってみれば、中米の間でうまく立ち回り、中国包囲網に関わらないことが、自分たちの利益により合致する」と指摘した。(編集KS)
「人民網日本語版」2022年5月25日
(人民網日本語版)
http://j.people.com.cn/n3/2022/0526/c94474-10102000.html
専門家「日本の『インド太平洋経済枠組み』参加は逆効果の可能性」
人民網日本語版 2022年05月26日16:46
バイデン米大統領が訪日時に正式に発足させた「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」に、日本政府は積極的に迎合し、追随している。しかし実際の結果を考えると、IPEFは中日及び地域の経済・貿易協力だけでなく、日米の経済・貿易協力や日本自身の経済回復にも深刻なマイナス効果を生むことになるだろう。(文:于海龍・中共中央党校【国家行政学院】国際戦略研究院学者。環球時報掲載)
米国が主導し、しかも明確に中国を念頭に置いた「IPEF」への岸田政権の積極的迎合は、アジア太平洋地域の経済協力の全体的断裂を招き、既存の経済協力メカニズムでの中日間の協力を妨げる可能性が高い。また、米国が「インド太平洋戦略」及びその経済的支えである「IPEF」の推進を加速することで、東南アジア諸国をはじめとするこの地域の中小国に陣営選択というジレンマと試練がもたらされ、地域の中心としての地位にあるASEANは脇に追いやられ、自らも分裂の危険を抱える可能性さえあり、経済のグローバル化と地域化の促進におけるアジア太平洋の既存経済協力メカニズムの働きは大幅に弱められることになる。
そのような状況では、日本自身の経済発展も逆に損なわれることになる。日本政府はかつて、日米の経済・貿易関係の強化を含む目的のために、米国主導の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に積極的に参加したが、その後、トランプ政権は米国の利益にならないとして離脱を強行した。日本政府は米国をCPTPPに復帰させる考えをあきらめていないが、今までのところ、岸田政権が「IPEF」を支持しても、バイデン政権はCPTPP復帰に関心を示していない。日本が苦労して支えてきたCPTPP協力は、トランプ政権の離脱を経験した後、今度は「IPEF」との競争、さらには衝撃にも直面することになるだろう。
これと同時に、岸田政権は発足以来、「新しい資本主義」という発展構想を提唱し、推進してきた。そのためには、対外経済協力、特に重要な経済・貿易パートナーである中米両国との関係への善処が早急に必要だ。しかし、中国を牽制する「IPEF」への頑なな参加が、経済・貿易協力面での中日間の良好な相互作用に影響を与えることは必至であり、岸田政権の「新しい資本主義」構想の推進にもマイナスの影響をもたらすことになるだろう。(編集NA)
「人民網日本語版」2022年5月26日
―参考―
- 王毅部長「米国の『インド太平洋経済枠組み』に大きな疑問符」(人民網日本語版)[2022.5.23]
- IPEF発足、外交部「アジア太平洋の陣営化・NATO化・冷戦化の企ては実現できない」(人民網日本語版)[2022.5.24]
- 王毅部長「アジア太平洋に軍事ブロックと陣営対立を持ち込む企てを断固拒絶」(人民網日本語版)[2022.5.24]
(Sputnik日本)
https://jp.sputniknews.com/20220530/11387842.html
IPEF 経済的繁栄か米国の覇権奪取の争いか?
2022年5月30日, 10:15
© 写真 : POTUS
タチヤナ フロニ
最近アジア歴訪を行ったジョー・バイデン米大統領は、東京で、中国を排除した新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の立ち上げを正式に発表した。米政府はこのIPEFをデジタルを含む貿易の高水準ルール設定と今世紀のサプライチェーンの強化を呼びかける重要な経済の合意だと見なしている。これは巨大な経済連携であり、米大統領府はこの経済力をアジアにおける中国との新たな覇権争いに利用する意向である。しかし、この米国が提唱する新たな構想が、中国も参加する具体的な地域の経済同盟に、「言葉だけでなく、実際に」勝つチャンスはあるのだろうか。
現実的な突破口か、ただの構想か?
米国がIPEFの発足を急いでいるのは、米国がトランプ前大統領時代にTPP(環太平洋パートナーシップ協定)から離脱したことによるもので、米国はそれに代わる新たな枠組みを早急に打ち出す必要があるからだと経済アナリスト(投資会社インスタント・インヴェスト金融市場・マクロ経済分析部長)、アレクサンドル・チモフェーエフ氏は指摘する。
「米大統領府はTPPにすぐに復帰する可能性はないと見ています。そこで、その地域(アジア太平洋地域=米国が常に自国の内海と考えている場所)において、米国の立場は大幅に弱まりました。従って、米国は新たな経済構想がうまく進んでいないことに焦りを感じています。一方、アジアでは、2020年の末に、日本、オーストラリア、その他アジア太平洋地域の12カ国と中国が参加する巨大な自由貿易圏がすでに創設されています。これは新たな米国の失敗であり、一方の中国は逆に多くの国々との間で法的合意(貿易、インフラ投資などに関する)を締結し、地域における自国の立場を強めました。こうした状況を背景に、IPEF(法的拘束力のない)は現時点ではバイデン大統領の意向を一方的に宣言した政治的なPRに過ぎません。というのも、地域の国々(地域内のプレーヤーと日本)はIPEFがなくても、順調な貿易と発展に必要な資源と(既存の合意を基にした)あらゆる経済メカニズムを有しています。これらの国々は現在の条件下でも十分順調ですが、これらの国々はIPEFへの参加をこれみよがしに拒否することで米国を「怒らせる」ことはできずにいます。しかしながら、この地域の国々のほとんどは、米国の利益のために中国と争うつもりはありません」
米国の「第二戦線」:なぜ米国はますます中国を「弄ぶ」のか?
5月28日, 09:40
そこで、米国が率いるこの新たなインド太平洋経済戦略が、東南アジア諸国の間で、(今後、閣僚レベルでの前進に向けた)現実的な支持を得られるとは断言できないと専門家は指摘する。
政治学博士で、ロシア科学アカデミー極東研究所政治研究予測センターのアンドレイ・ヴィノグラードフ所長も、この新たな経済圏構想は現時点ではプロパガンダの一環に過ぎないとの見方を示している。
「地域の国々は経済的に中国と密接に関係を築いています。ですから、彼らにとっての重要な課題はこの連携を維持することなのです。もちろん、これらの国々は自らの主権と独立性を守ろうとしており、そのために米国が役に立つ可能性はあります。ですから、ほぼすべてのアジア諸国は(日本と台湾を除いて)これまで通り、自国の経済的利益への損害を被るのを避けつつ、中国と米国の間でうまくバランスを取り続けることになります」
たとえば、(ウクライナ情勢を背景とした)対露制裁の条件下にあるEU(欧州連合)諸国が自国の経済利益よりも政治を重要視したのと同様である。
新たな世界秩序確立の戦いか?
しかし、米国との対立が激化した場合に、アジア諸国の「バランスの維持」が、中国にとっても危機的なものになる可能性はあるのだろうか。
「IPEFが純粋な経済的に反中国的なものだというのは、あまりにも単純な捉え方だと思います。というのもそれはこの構想の機能の一つにすぎないからです。実際、この構想の持つ意義は、米国の経済利益というものより、はるかに広いものです。なぜなら、米国も中国も、経済分野における中国との競争だけに懸念を抱いているわけではないからです。米国は(新たな構想を立ち上げつつ)、新たな秩序を形成しています。そして、米国の見地から言えば、これは破壊的なものではなく、建設的なものです。彼らは信頼できる、経済的に有益で、かつ地域の安全を維持し、それでいて、米国の利益に敵うような組織を構築しようとしているのです。こうした構造は事実、ある意味で中国の利益に反するかもしれません。しかし、中国の経済プロジェクト(一帯一路)もまた米国の利益に影響を与えるものです。しかし、戦略的な米中の競争というのは、現在すでに経済だけではなく、世界がどのように確立されるかということに対する戦いなのです」
米国と中国は(冷戦中の米国とソ連のように)現在、独自の新たな世界と秩序を作り上げ、そこにできるだけ多くの国々を引き入れようとしている。
アジアが結束するための新たな枠組みを提案するバイデン大統領 オピニオン
5月27日, 16:54
そこで、将来のイデオロギーに関する問題(一極世界、二極世界あるいは多極世界)が主要な国々の経済的、政治的な対立にもより明らかに現れつつある。これについて専門家は次のように述べている。
「他でもないイデオロギーが主要な分断線となり、同時に世界における新たなリーダーシップを手にするための『影響力』となっています。というのも、新たな世界で米国が単に中国の定義に従うことはできませんし、また逆も然りだからです」
つまり、IPEFの主要な目的は、アジア太平洋地域で拡大しつつある中国の影響力とその「経済的孤立」の牽制だけでなく、世界の覇権者、世界の支配力としての米国の「生き残り」でもある。しかし、インド太平洋地域を繁栄した安全なものにするという米国の考えを伝えるバイデン大統領の宣言だけでは、明らかに不十分である。
一方、中国は多くは語らないが、地域のパートナー諸国の現実的な経済成長のために多くのことを成し遂げている。アジアにおける米国の成功といえば、今のところ軍事分野(米国の基地の数)でしか目立っていないのである。
オピニオン IPEF 米国 アジア 経済
※2022.5.30 記事を追加しました。