通貨政策と物価安定(FRB)[2022.8.26 パウエル議長の講演]/アジアで株価が下落 米国の利上げ継続方針に警戒感 (BBC NEWS JAPAN)

通貨政策と物価安定(FRB)[2022.8.26 パウエル議長の講演]/アジアで株価が下落 米国の利上げ継続方針に警戒感 (BBC NEWS JAPAN)









(Monetary Policy and Price Stability: Board of Governors of the Federal Reserve System)

https://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/powell20220826a.htm





2022年8月26日





通貨政策と物価安定





議長 ジェローム・H・パウエル





ワイオミング州ジャクソンホールカンザスシティ連邦準備銀行が主催する経済政策シンポジウム「経済および政策上の諸制約を再評価する」にて





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本日はここでお話しする機会を頂き、ありがとうございます。



私は過去のジャクソンホール会議で、絶え間なく変化する経済の構造、高い不確実性の下で通貨政策を実施する上での諸課題など、幅広いテーマについて論じてきました。今日は更に短めに、焦点を絞って、率直にお話しします。



現在の連邦公開市場委員会 (FOMC) の重要な焦点は、インフレを目標の2%まで引き下げることです。物価の安定こそが連邦準備制度の責任であり、これは私たちの経済の基盤にもなっています。物価が安定しなければ、経済は誰のためにも機能しません。特に、物価の安定がなければ、全ての人に利益をもたらす強い労働市場の状態が持続することはありません。高いインフレの重荷は、耐える力の最も弱い人々に最も重く伸し掛かります。



価格の安定を取り戻すには一定の時間が掛かり、需要と供給のバランスを更に良くするためにツールを強力に使う必要があります。インフレ率を下げるには、一定の期間トレンドを下回る成長を続ける必要がありそうです。更に、労働市場の状態をいくらか軟化させることになるでしょう。金利の上昇・成長の鈍化・労働市場の軟化はインフレ率を低下させる一方で、家計や企業にいくらかの苦痛をもたらすでしょう。これらは、インフレ抑制の不幸な代償です。しかし、物価の安定を回復できなければ、遥かに大きな痛手を受けることになります。



米国経済は、パンデミック不況後の経済の再開を反映した2021年の歴史的な高い成長から明らかに減速しています。最新の経済データはまちまちですが、私の見解では、わが国の経済は根強いモメンタムを示し続けています。労働市場は特に堅調ですが、労働者の需要が就労可能な労働者の供給を大幅に上回っており、明らかにバランスが崩れています。インフレ率は2%を遥かに上回っており、高いインフレは経済全体に広がり続けています。7月のインフレ指標の低下は歓迎すべきことですが、委員会としては、1ヵ月間の改善を見ただけではインフレが低下に移行したと確信するには全く足りません。



私たちは、インフレを2%に戻すために十分に抑制的な水準まで政策スタンスを意図的に移行しています。7月の直近の会合で、FOMCフェデラル・ファンド金利の目標範囲を2.25~2.5%に引き上げました。これは、経済予測サマリー(SEP)においてフェデラル・ファンド金利が長期的に収まると推定される範囲に入っています。現在の状況ではインフレ率が2%を遥かに上回っており、労働市場も非常に逼迫しているため、長期的に中立という推定はもはや成立しなくなりました。



7月の目標範囲を引き上げは75ベーシス・ポイントで、同じだけの会合数では2度目となりましたが、私はその時に、次の会合では格段に大きな引き上げを改めて行うことが適切かも知れないと申し上げました。今は次の会合までの期間のほぼ半分です。9月の会合では、私たちは新しく上がるデータと見通しの進展とを総合して判断します。通貨政策のスタンスが更に引き締まると、ある時点で上昇のペースを遅くすることが適切になりそうです。



物価の安定を回復するためには、一定の期間は抑制的な政策スタンスを維持する必要がありそうです。過去の記録は、時期尚早の政策緩和を強く警告しています。6月のSEPに示された委員会参加者による最新の個別予測によれば、フェデラル・ファンド金利の中央値は2023年末までを通して4%を僅かに下回ります。参加者は9月の会議で予測を更新します。



私たちの通貨政策の審議と決定は、1970年代や1980年代の高い不安定なインフレと、この4半世紀の低い安定したインフレの両方から、インフレの力学について学んだことに基づいています。特に、私たちは3つの重要な教訓を引き出しています。



最初の教訓は、中央銀行は低い安定したインフレを実現する責任を負うことが可能であり、また、負うべきだということです。以前は中央銀行やその他の人々にはこの2つの面で説得力を持つ必要のあったことは、今では奇妙に思えるかもしれませんが、ベン・バーナンキ元議長が示したように、大インフレ時代にはこの2つの命題を同時に成り立たせることは広く疑問視されていました。1 現在ではこの問題は決着したと、私たちは考えています。価格の安定を実現するという私たちの責任に条件は付きません。確かに、現在の高いインフレは世界的な現象であり、世界中の多くの国がここ米国で見られるのと同じかそれ以上のインフレに直面しています。また、私の見解では、現在の米国の高いインフレは、強い需要と弱まった供給の産物であり、FRBのツールが主に総需要に対して働いていることも事実です。こうしたことのいずれも、物価安定の達成という、連邦準備制度理事会に課せられた任務を遂行する責任を軽減するものではありません。需要を緩和して供給との整合性を高めるには、行うべき仕事があるのは明らかです。私たちはその仕事を行うことに専念しています。



2番目の教訓は、将来のインフレに対する国民の期待が、時間の経過に伴いインフレの推移が定まる上で重要な役割を果たす場合があるということです。今日、多くの指標から見て、長期的に強いインフレ期待が今後も続くように見えます。これは、家計・企業・予測担当者に対する調査や、市場に基づく諸指標にも広く当てはまります。しかし、これを根拠に満足することは出来ません。かなりの期間、インフレ率が私たちの目標を遥かに上回ったためです。



インフレが長期に及んで低く安定すると国民が予想する場合、大きなショックがなければ実際にそうなる可能性が高いです。残念なことに、同じことは高い不安定なインフレの予想にも当てはまります。1970年代、インフレ率が上昇するにつれて、家計や企業の経済的な意思決定に高いインフレの予想が織り込まれるようになりました。インフレ率が上昇すればするほど、人々はそれが高止まりすると予想するようになり、賃金や価格設定の判断にその期待値を織り込みました。ポール・ボルカー元議長が1979年の大インフレの最盛期に述べたように、「インフレには自分自身を餌にするという性質があります。そのため、経済に安定と生産性を取り戻すための仕事の一部として、インフレ期待の影響力を打ち砕くことも必要です。」2



実際のインフレが将来の推移についての予想にどう影響するかについての有用な洞察の1つは、「合理的な不注意」3という概念に基づいています。高いインフレが続いている時には、家計や企業はこれに細心の注意を払い経済的な判断に織り込む必要があります。インフレが低く安定している時には、彼らが他のことに注意を向ける自由は大きくなります。アラン・グリーンスパン元会長は次のように述べています。「全ての実用的な目的において、物価の安定とは平均的な物価水準の予想される変化が、企業や家計の財政的な意思決定に実質的に影響を与えない程度にまで十分に小さく、また、十分に緩やかであることを意味します。」4



もちろん、現在、インフレはほぼすべての人の注目を集めており、これは今日における特定のリスクを浮き彫りにしています。そのリスクとは、現在の高いインフレが長引けば長引くほど、インフレが更に高まるという予想が織り込まれていく可能性が高まる、ということです。



それは、仕事は終わるまで続けねばならないという3番目の教訓につながります。歴史が示すように、インフレの抑制が遅れるほど高いインフレが賃金や物価の設定に更に織り込まれるため、これに伴う雇用の損失が大きくなる傾向があります。ボルカー氏は1980年代初めにインフレの緩和に成功しましたが、それ以前の15年間には何度もインフレを引き下げようとして失敗しています。高いインフレを食い止め、インフレを昨年春までの標準であった低く安定した水準に引き下げるプロセスを始めるためには、結局のところ、抑制度の強い通貨政策を長い期間に及んで行う必要がありました。私たちの目的は、強い意志でいま行動することにより、同じ轍を踏まないことです。



これらの教訓は、ツールを使用してインフレを引き下げる際の指針となります。私たちは、需要を抑制して供給との整合性を高めると共に、インフレ期待を安定させるために、強力かつ迅速な措置を講じています。仕事が終わったと確信できるまで、私たちはこれを続けます。







1. 2月20日にワシントンで開催されたイースタン・エコノミック・アソシエーションの会議で行われた Ben Bernanke (2004) の「The Great Moderation」のスピーチ。Ben Bernanke (2022), "Inflation Isn't going to Bring the 1970s," New York Times, June 14.



2. ポール A. ボルカー (1979)、「1979年10月17日、米国議会合同経済委員会での声明」、連邦準備制度公報、vol. 65(11月)、p. 888。



3. 金融経済学における合理的不注意の適用に関する論評は、Christopher A. Sims (2010)、「Rational Inattention and Monetary Economics」、Benjamin M. Friedman および Michael Woodford 編、Handbook of Monetary Economics、vol. 3 (アムステルダム: 北ホラント州), pp. 155–81。



4. Alan Greenspan (1989)、「1989年2月21日、米上院銀行・住宅・都市問題委員会での声明」、連邦準備制度公報、vol. 75(4月)、pp. 274–75。










最終更新日:2022年8月26 日







(元記事)









―参考―













(BBC NEWS JAPAN)

https://www.bbc.com/japanese/62711865





アジアで株価が下落 米国の利上げ継続方針に警戒感





2022年8月29日







Getty Images





アジア各国で29日、株価が下落した。アメリカの中央銀行トップが、インフレ対策としての金利の引き上げを継続する方針を示したのを受けたもの。





日本の株式市場はこの日、日経平均株価が前営業日比2.7%安で取引を終えた。



韓国の総合株価指数(KOSPI)とオーストラリアの代表的な株価指数ASX200も、共に同約2%下落。香港のハンセン指数は同0.8%下げた。



こうした値動きは、米連邦準備制度理事会FRB)のジェローム・パウエル議長が、利上げ継続の方針を表明したことを受けたものとみられる。パウエル氏は26日、FRB金利政策によって「家計や企業に何らかの痛み」が生じるだろうと警告した。



この発言で、ニューヨークの主要株価指数はこの日、前日比3%以上下落した。



金利の上昇は、個人や企業にとって借金のコストを増やす。インフレだけでなく経済成長も鈍らせる可能性がある。





パウエル議長の発言



パウエル氏は26日、ワイオミング州ジャクソンホールで講演。FRBが今後数カ月、利上げを続ける可能性が高く、高金利は「しばらく」維持するだろうとの見通しを示した。



また、利上げは米国内の家計や企業に打撃となるが、「物価の安定を取り戻せなければ、はるかに大きな痛みになる」と述べた。



国内総生産GDP)が世界最大のアメリカは、インフレ率が40年ぶりの高水準にある。



みずほ銀行の経済戦略部門トップのヴィシュヌ・ヴァラタン氏は、「パウエル議長はインフレを容赦なく攻撃し、頸(けい)動脈を狙った」と分析した。



香港の恒生(ハンセン)銀行のチーフエコノミスト、ダン・ワン氏は、中国経済が減速していることも投資家にとっては懸念材料だとBBCに話した。



「中国では新型コロナウイルス対策が長期化し、経済観が悪化している。そのため、さらなる政策金利の引き下げが必要となっている。中国では、さらなる利下げをしないと内需が弱すぎる」





中国経済の成長鈍化



中国の中央銀行は、第2四半期に経済成長が急激に鈍化したことを受け、貸出金利を今月初めに引き下げた。



また、四川省では電力が不足しており、中国国内の自動車やスマートフォンの大手メーカーにとって打撃となっている。



先週末には、中国の工業部門の企業の1~7月の利益が前年同期比で1.1%減少したとする公式データが発表された。



中国の不動産市場の危機も、経済成長を維持しようとする政府の努力にとって大きな課題となっている。





(英語記事 Asia stock markets slide on US interest rate fears





関連トピックス 日経平均 韓国 香港 アメリカ 中国 株式市場 日本 アジア









(投稿者より)



英語記事は原文をグーグル翻訳に掛けた上で、文意の通らない箇所を重点的に見直しました。AIの進化の速さに驚嘆しています。



「現在の状況ではインフレ率が2%を遥かに上回っており、労働市場も非常に逼迫しているため、長期的に中立という推定はもはや成立しなくなりました。」 "In current circumstances, with inflation running far above 2 percent and the labor market extremely tight, estimates of longer-run neutral are not a place to stop or pause." "neutral"「中立」というのは、引き締めでも緩和でもない、"not a place to stop or pause" は「最終的な停止点でも一時的な停止点でも無い」、と解しましたが、自信はありません。



ただ、消費者物価指数などの諸指標を睨みながら景気の減退を抑えるギリギリの範囲で金利を操作するという、あたかも雲の切れ目を縫いながら有視界飛行で着地点を探すような政策運営を行っていたわけで、上がっただけは何れ下がるだろう、という目算があったのでしょうか?それで、"estimates of longer-run neutral"「長期的には中立という推定」と表現したのだろうか?、とも思いました。"neutral interest"「中立金利」という概念が存在することは知っていますが、このこととの関連の有無は分かりませんでした、と白状しておきます。



同様に、"inflation expectations" 「インフレ期待」という用語が存在するのは知っていますが、"expectations"は「期待」「予想」となんとなく訳し分けました。いずれも門外漢の開き直りと、御容赦くだされば有り難いです、



「歴史が示すように、インフレの抑制が遅れるほど高いインフレが賃金と物価の設定に更に織り込まれるため、これに伴う雇用の損失が大きくなる傾向があります。」 "History shows that the employment costs of bringing down inflation are likely to increase with delay, as high inflation becomes more entrenched in wage and price setting." こちらは誤訳では無いと思います。皆様でも御検証いただければ有り難いです。



ジャクソンホールの議長講演は例年は無風のようですが、今年は暴落を控えているとも言われているため注目を浴び、実際に大きな反応を起こしました。振り返って見た時、これが一里塚だったと言われる日が来るかも知れません。






※2022.9.3 訳文を一部見直しました。併せて、コメントも訂正しています。