円が急落する中、日本の中央銀行は自己の立場を貫く (DW English)

円が急落する中、日本の中央銀行は自己の立場を貫く (DW English)









(Japan's central bank stands firm as yen plummets in value: DW English)

https://www.dw.com/en/japans-central-bank-stands-firm-as-yen-plummets-in-value/a-62201533





円が急落する中、日本の中央銀行は自己の立場を貫く





必需品と高価な贅沢品の価格上昇により、10年間の通貨の安定が終わった。しかし、中央銀行は円安政策の維持を決意しているようだ。







日本の中央銀行は、インフレに見舞われた他のいくつかの国で見られたような、金利引き上げの道を行くことを望まないようだ





2年以上前から、タケナカ・フミオさんは外国のビーチで家族と休暇を過ごすのを楽しみにしていた。コロナウイルスの世界的流行が衰え太平洋の各地でリゾート地が再開されたので、彼女は1週間ハワイを旅行する計画を立て始めたが、見積もり価格を見て彼女はただ震えた。



旅行業者が、業界の多くに打撃を与えた強制休業の間に失った収入の一部を取り戻そうとして価格を押し上げる中、航空料金は燃料代の上昇のために値上がりした。しかし、タケナカさんの家族の休暇の計画に最も大きな影響を与えたのは、円の急落だった。



日本の通貨・円の交換価値が下落してしまったのだ。今日では僅か1ドルを買うためにほぼ135円を支払う必要がある。これは、1998年以来見られなかった水準だ。



またこれは、つい3月中旬には1ドル110~120円だった為替相場の大幅な下落でもある。アナリストたちは、円は下落を再開して間もなく140円台に達する可能性があるという意見だ。



「ホテル、カメを見るためのノースショアへの日帰り旅行、ホノルルでの食事などの円価格を計算したとき、私は衝撃を受けた。空港の送迎さえも今では非常に高価なようだ」とタケナカさんはDWに語った。 「私たちは以前ハワイに何度か行ったが、価格がここまで高かった覚えがない。」





国内の価格上昇



「ここ日本でも食料・燃料をはじめ有らゆる価格が上昇しているが、今はドルを使うと私たちの予算を超えるようだ」とタケナカさんは語った。「代わりに、今年は沖縄に戻ろうかなと考えている。」











円という富の急激な下落は、日本の消費者や企業、特に、輸入品が急に手を出せないほど高額になった企業に警鐘を鳴らした。月曜日、岸田文雄首相と黒田東彦日銀総裁は東京で会談を行い、円の下落は「懸念事項」だと述べた。



それにも係わらず、インフレ抑制のために金利を引き上げてきた欧米の中央銀行と対照的に、日本銀行は黒田氏の下で超低金利政策を維持することを再確認した。その結果、投資家たちが自身の持ち株を日本の通貨で即座に売却したと、アナリストたちは述べている。



富士通のグローバル・マーケット・インテリジェンス・ユニットのチーフ・ポリシー・エコノミストマルティン・シュルツ氏は、「円は1ドル140円になると十分に予想している」と述べた。



「円安政策と紙幣の大量発行は『クロダノミクス』の核となる要素であり、その通貨緩和政策は日本の輸出業者の収益にプラスの影響を与え、更に、海外で得られた利益が日本に送金された時の円貨を増加させると見られている」と、彼は述べた。





インフレとデフレが主要な関心事



シュルツ氏によると、黒田氏と中央銀行は、インフレとデフレの制御を主要な関心事として、10年以上この政策に固執してきた。しかし他の国々と異なり、パンデミック、世界的なサプライチェーンを襲った混乱、それに伴う景気後退、そして現在のウクライナの紛争のために世界が劇的な変化したにも係わらず、日本は優先順位を変えることを拒否した。



日本ではこれらの影響は、特に燃料などの輸入品や、トウモロコシ・食用油・小麦などの食料品の価格の高騰に現れている。



食用油の価格は、昨年5月に1リットル(約1クォート)当たり213円から現在は平均323円(2.27ユーロ)に急騰し、マヨネーズの価格は30%近く上昇し、乾麺パスタの価格は過去12か月で600グラム(20オンス)当たり256円(1.80ユーロ)から292円(2.05ユーロ)になった。小売分析業トゥルーデータ社によれば、小麦は9%上昇して1キログラム(2.2ポンド)当たり254円(1.78ユーロ)になった。



日本の企業は通貨の不安定を懸念しており、朝日新聞の調査に対して大手企業100社のうち45社が、円安が国民経済に深刻な打撃を与えることを恐れていると回答し、更に38社がその影響について「ややマイナス」と回答した。影響がプラスだと答えたのは調査対象の企業のうち僅か9社だった。



大多数の人にとって、最も深刻な問題は原材料価格―日本には国内産業の需要を満たすために必要な天然資源が殆ど無い―と輸送費の上昇だ。





シュルツ氏は、「日本銀行は、円安は日本にとって良いことだというメッセージを押し付けてきたが、物価の急騰を目の当たりにしている産業界や一般の人々は同意していない」と述べた。





見通しは楽観的



シュルツ氏は、今後数週間から数ヵ月の間は円の下降傾向が続くと十分に予想しているが、日本経済に悪影響を及ぼしている前例のない一連の状況は遅かれ早かれ和らいで行くと考えている。サプライチェーンの閉塞はやがて解消され、外国人による日本観光(日本のGDPの丸1%に相当する)も近い将来再開するはずだと、彼は指摘した。



同様に、不況の兆しが明らかさを増す米国経済が景気後退に入ると、円は間もなく投資家にとって更に魅力ある「安全な逃避」通貨になり、過去1年間に失われた投資の相当な額が戻って来るはずだと、彼は述べた。



「少なくとも日本政府はこれを望んでいる」と、彼は述べた。 「彼らは夏の間に全てが改善し、それが為替相場を安定させるのに役立つことを期待している。」





編集者:アレックス・ベリー





発表 2022年6月21日

記者 ジュリアン・ライオール(東京)

関連テーマ アジア, 日本, 景気後退, インフレ, 通貨