【解説】 なぜイギリスは方向転換したのか 新型ウイルス対策 (BBC NEWS JAPAN)

【解説】 なぜイギリスは方向転換したのか 新型ウイルス対策 (BBC NEWS JAPAN)









https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-51996098





【解説】 なぜイギリスは方向転換したのか 新型ウイルス対策





2020年03月23日





ジェイムズ・ギャラガBBC健康科学担当編集委員







Getty Images

ジョンソン英首相(中央)は16日、ヴァランス首席科学顧問(右)、ウィッティー主任医務官(左)と共に官邸で記者会見し、ウイルス対策強化を発表した






方向転換をするか、さもなくば25万人が死ぬか。このまま行けば新型コロナウイルスの「破局的な流行」で、国内でそれだけの大惨事になる。これほどはっきりした警告など、そうそうない。



新型コロナウイルスによる感染症「COVID-19」がどう伝染し、それによって国民保健サービス(NHS)がどうやってパンクして、その結果として何人が死ぬのか――。これの展開をシミュレートしてコンピューター・モデルを走らせていた研究チームが、イギリス政府にそのように警告したのだ。



そのためイギリスでの状況は劇的に変化した。平時において自分たちの生活がこれほど変化させられるなど、私たちは経験したことがない。



冷や水を浴びせられたような認識の変化は、16日の政府発表までの数日間であっという間に起きた。



しかしそのずっと前から、多くの科学者と世界保健機関(WHO)は、ウイルス対策には総力戦で臨まなくてはならないと警告していたのだ。





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政府のウイルス対策に大きく影響しているのは、インペリアル・コレッジ・ロンドンのCOVID-19対策チームだ。中国湖北省の事態がいかに深刻かいち早く気づいたこのチームは、政府に方針転換させるほどの決定的な証拠を提示した。



対策チームは新型コロナウイルスについて、呼吸器系のウイルスとしては通称「スペイン風邪」と呼ばれる1918年のインフルエンザ大流行以来の、深刻な危機を公衆衛生にもたらすと警告した。



選択肢として可能な3種類の戦略について、それぞれどういう顛末(てんまつ)になるか、対策チームは判定した。



  • 封じ込め――感染の連鎖を断ち、感染流行の途中で悪化を食い止め、中国がそうしたように可能な限り症例を少なく抑える

  • 緩和――新型コロナウイルスの拡大を食い止めるのは無理だと受け入れ、重症化のリスクが最も高い人たちを守りつつ、NHSのパンクを防ぐために感染者が一気に急増する事態を防ごうとする。これが3月前半までのイギリス政府の戦略のようだった

  • 何もしない――ウイルスが国内をボロボロにするのをただ座視する






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政府首席科学顧問のサー・パトリック・ヴァランスがこの「緩和」策についてBBCに説明したのは、方針転換のわずか数日前、今月13日のことだった



サー・パトリックは、「私たちの目的は、感染のピークを減らしてなだらかにすることだ。完全に封じ込めることではない」と話した。



「それによって大多数の人が軽症を発症することになるので、なるべく大勢がこの病気にかからないように、ある種の『集団免疫』を作り出すことだ」



もし緩和策がうまくいっていたら、ほかの国が実施した極端に厳しい対策を避けつつ、この国の住民の多くが免疫をつけることで、ウイルス拡大の規模を抑制できていたはずだ。



緩和策では、市民が不要にお互いに接触しないようにする「社会的距離」戦略を、限定的に実施するだけで済んだはずだ。しかし、感染「封じ込め」となると、この対策をもっと強化しなくてはならない。市民の行動を大幅に制限し、隔離期間も長期化する。



しかし、インペリアル・コレッジ・ロンドンの数量モデルは、もしイギリスが何も対策をとらなければ、国民の81%が感染し、8月までに51万人が死亡するという見通しを示した。



緩和策はまだましだが、それでも25万人が死亡し、NHSの集中治療能力は完全に破綻するという見通しだった。



イタリアの経験と、イギリスの初期状態から得られた予測だった。



入院を余儀なくされる人の約3割は、集中治療を必要とするだろう。その人たちはたとえば、人工呼吸器が必要となる。NHSにはとてもではないが対応できない事態だ。











イギリスの医療機関に可能な集中治療能力の「少なくとも8倍」の態勢が必要になるとされた。しかもこれは、緩和策が最もうまくいった場合という、最大限に楽観的なシナリオだった。



「政府は様々な形でNHSを増強しようと準備していたが、それでも各地の集中治療室はパンクする危険が高かった」と、インペリアル・コレッジのニール・ファーガソン教授は話した。



対策チームは、「現時点では、有効な戦略は封じ込めしかない」と結論した。それによって死者数を数万人、できれば数千人に抑えたいと、政府は期待している。



政府はかねてから、自分たちは科学に従っていると言い続けていた。そしてこれについては、科学の知見が大転換したのだ。



その結果、パブもクラブも劇場も休業することになった。可能な限り誰もが自宅で働き、家族の誰かが病気になったらその世帯全員が隔離される。







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それでも、この封じ込め戦略には大きな問題がある。



出口戦略のないまま、社会の一部を停止するのだから。



そして、感染する人が少なく抑えられれば、社会全体としての免疫はあまりつかない。そのため、行動制限の施策が解除されれば、感染者はまた一気に急増するだろう。



これは中国がいま直面する問題だ。武漢では1月末の時点で人口の95%がまだウイルスの免疫を獲得していなかっただろうと、調査結果から推測されている。



インペリアル・コレッジによると、ワクチンが使えるようになるまでにはまだ1年半かかるかもしれない。しかも、それさえ何の保証もない。



事態打開にはまだまだ、かなり時間がかかるかもしれない。







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これまで挙げてきた推測はすべて、数理モデルからの推論に過ぎない。それは強調しておきたい。数理モデルというのは、課程と推量から成り立っている。完璧ではないし、その結論は金科玉条ではない。



新型コロナウイルスの出現に私たちがやっと気づいたのは昨年12月のことで、まだまだ十分に理解できていない。感染はしても症状が出ていない不顕性感染の規模や、これから夏になったらそれがどう影響するのか、まだ分かっていないのだ。



しかし、インペリアル・コレッジの研究に参加していない疫学予測の専門家、アダム・クチャルスキ博士は、「簡単な解決策はない」と言う。



「これまで色々分析していたが、これほど難しい集団感染は初めてだ」と博士は話した。



「深刻な打撃が何もないままこれが終わるなど、まったくあり得ない」




















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(英語記事 Coronavirus: UK changes course amid death toll fears





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