「中国:『ゼロコロナ』抗議の顛末」 (BBC NEWS JAPAN)
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-63789858
習氏を窮地に追い込む新型ウイルスへの怒りと恐怖 「ゼロコロナ」抗議の背景を解説
2022年11月29日
テッサ・ウォン、BBCニュース
Reuters
抗議デモでは参加者たちが白紙を掲げて当局の検閲への抵抗を示した(北京、27日)
中国ではこの3年間、新型コロナウイルス対策のロックダウンと集団検査が実施されるたび、国民10億人の我慢がどんどん限界に近づいてきた。
そして今、限界に達している。
何千人もが路上に出て、新型ウイルス対策の規制に抗議している。疲れ果てた国民は、習近平国家主席の「ゼロコロナ」政策にいつまで耐えなければならないのかと問うている。
習氏は過去最大級の政治的試練を迎えている。中国共産党は、パンデミックからの出口を探りながら、高まる怒りと新型ウイルスへの根強い恐怖の両方に対処しなくてはならない状況にある。
国民の怒りに火をつけた火災
西部ウルムチ市で発生した集合住宅の火災は当初、全国的な抗議行動のきっかけになるとは思われなかったかもしれない。
しかし、10人の命を奪ったこの出来事は、高層集合住宅に住む何百万人もの中国人にとって、究極的な悪夢のシナリオとなった。厳しいロックダウンのため、住民は各戸に閉じ込められ、燃え盛る炎から逃げられなかったのだ。
当局はこうした見方に反論している。しかし、国民の怒りと不安は広がり続けている。外に出すよう叫んだり懇願したりする住民たちの様子だとされる動画や音声がネット上で拡散されると、その勢いはいよいよ強まった。
この火災は、新型ウイルス対策の規制に関連した恐ろしいエピソードの最新事例となった。
これ以前にも、全市的なロックダウンで必要な時に医療が受けられず、妊娠中の女性が流産したり、高齢者や病弱な人たちが亡くなったりしているといった話が報じられていた。
ロックダウンが実施された都市の多くでは、食料や医薬品の不足という同じ事態が生じているとされた。地方当局が対応に苦慮していることも明らかになった。
その後、心にさらに深刻な傷を残すような出来事が明らかになり始めた。隔離センター行きのバスの衝突事故で数十人が死亡し、隔離施設で子どもたちが命を失っていることなどが表面化した。
先月の中国共産党大会では、多くの人が緩和策の発表を期待した。しかし、権力を強固にした習氏は、ゼロコロナ政策に変更はないと明言。国民のさらなる落胆を招いた。
この政策が多くの命を救ったのは疑いない。人口当たりの新型ウイルスによる死亡率は、中国は世界最低レベルだ。だが一方で、国民のエネルギーを奪ってきた。
新型ウイルス対策の規制による苦難は、全国民が経験している。大都市から新疆やチベットなどの遠隔地まで、多くの地域で怒りが沸き起こっている。
大学生、工場労働者、中流家庭、エリートなど、社会のあらゆる層が気を荒立てている。
Getty Images
中国では新型ウイルス検査が日常の一部とななっている
北京市内の橋の上で1人の男性が抗議行動を行い、習氏を公然と批判して国内に衝撃を与えた出来事は、中国の内外でより直接的かつ痛烈な反対意見を表明することについて、どこまで大丈夫かの基準の設定し、多くの人を勇気づけることになった。
中部の鄭州市では、数百人の工場労働者が自分たちの権利を訴え、監視カメラや窓ガラスを破壊し、警察ともみ合いになった。南西部の重慶市では、マスクをしていない男性が「自由をよこせ、さもなくば死を!」と叫び、その様子が撮影された。このかけ声は、多くのデモ参加者が取り入れた。
ウルムチでの火災が発生した時には、デモが各地で発生する下地ができていた。ウルムチで数百人が路上に立って抗議をすると、上海、北京、武漢、南京、成都でさらに多くの人々が続いた。習氏と中国共産党の退場を求める声まで上がった。
党や指導層に批判的な人を厳しく罰するこの国では、以前は考えられなかったことだ。
<関連記事>
中国情勢を注視している人たちは、今回の抗議について、ゼロコロナ政策への反対における転換点だと指摘。中国政府にとってすでに困難だった状況が、複雑化しているとみている。
米ジョンズ・ホプキンス大学の社会学者の孔诰烽氏は、「切迫した状況」だとし、習氏が初めて深刻な試練を迎えていると述べた。
「この2年間、習氏はゼロコロナ政策で自らを窮地に追い込んできた。抗議行動が拡大し続けた場合、彼にとって最も合理的な対処法は、現地当局に圧力をかけて厳しく取り締まらせ、自分は距離を置くことだ」
「しかし、現地当局が指示に従わない恐れはある。ゼロコロナの厳格さに当局も疲弊しているからだ」
新型ウイルスへの恐怖と嫌悪
では、政府は抗議の声に耳を傾け、ゼロコロナを緩めるだろうか?
今すぐそうするのは難しいだろう。高齢者のワクチン接種率が低く、有効性の高い国産ワクチンに欠け、外国製ワクチンの使用を政府が拒み続けている状況で、死者や感染者を最小限に抑えながら規制を緩めるのは困難だ。
「政府はジレンマを抱えている」と、英オックスフォード大学のラナ・ミッター教授(中国現代史)はBBCに話した。
「国として恥ずかしく見られるかもしれないこと(外国製ワクチンの輸入)をするか、この政策の終了時期を示さずに国境を閉鎖し続けようとするかだ」
中国は最近、対策をわずかに緩和して様子をみているようだ。隔離期間を短縮し、2次接触者の記録をやめた。
しかし、対策を緩めれば、感染者と死亡者は必然的に急増する。これは、シンガポールやオーストラリアなど、ゼロコロナから新型ウイルスとの共存に移行した国々で見られたことだ。
中国当局はまだ、そうした状況を受け入れるつもりはなさそうだ。
北京や広州など多くの都市は、新たな流行に対処するため、再び規制を実施している。新型ウイルスの急速な進化と、政府の資源の限界を考えれば、ゼロコロナを長期的に維持するのは困難だと専門家が警告しているにもかかわらずだ。
「政府が今すぐ軌道修正したいと思っても、全国で急増する感染者に対処しなければならない。問題は、ウイルスの拡散を食い止められるだけの国家としての能力や国民の支持が、政府にはもはやないことだ」と、米シンクタンクの外交問題評議会のグローバルヘルス担当シニアフェロー黄延中氏は話した。
当局者の間では、新型ウイルスによる死者の発生が制御不能となり、社会不安を引き起こすのではないかとの不安が渦巻いており、それも問題の一部となっている。
中国の国民には、新型ウイルスに対する恐怖心が残っている。この3年間、国からウイルスを恐ろしい敵とみなすように仕向けられた結果だ。有効なワクチンがない状態が続いていることも、不安材料となっている。
ここ数週間、石家荘市や、鄭州市の鴻海科技集団(フォックスコン)の工場では、新型ウイルスの拡散を放っておいたらどうなるか、住民を「モルモット」にして観察するようだとのうわさが広まった。
このため、両地ではパニックが広がった。鄭州市では労働者による集団脱走騒ぎまで起きた。
しかし、この恐怖が怒りに変わっている人もいる。最近の抗議デモでは、大勢の参加者が密集し、挑戦的にマスクを外して自由と規制撤廃を訴える人も出ている。
それがいつ、どのように実現されるかは、まだ不明だ。
習氏と中国共産党は、新型ウイルスの「ゴルディアスの結び目」を作った。今やそれをほどくのは極めて困難になっている。
BBC記者、中国当局に暴行受け一時拘束 上海でコロナ対策への抗議デモ取材中
(英語記事 China's fury and fear of Covid puts Xi in a bind)
関連トピックス コロナウイルス 習近平 健康 医療 中国 表現の自由 政治 アジア デモ
https://www.bbc.com/japanese/video-63817670
【解説】 中国「ゼロコロナ」政策への抗議とその取り締まり
2022年12月1日
中国では先週末、各地の大都市で新型コロナウイルス対策の厳しい規制への抗議デモが起こった。
政府はこれに対し、警察の大規模動員や取り締まりの強化、インターネットでの検閲などで対応している。
BBCのロズ・アトキンス分析担当編集長が解説する。
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-63831677
【解説】 中国で若者たちがデモを先導、その動機は
2022年12月2日
フランシス・マオ、BBCニュース
Getty Images
中国では若者たちが白い紙を掲げ、政府の新型コロナウイルス対策に抗議している
中国で先週末、新しい世代が誕生した。その多くが、公共の場での抗議デモに初めて参加した人たちだった。
彼らは街中に出て、もう3年近く続いている「ゼロコロナ」政策からの解放を訴えた。
上海でのデモは初め、静かだった。参加者は新疆のアパート火災の犠牲者を追悼するために集まっていた。多くの人が、新型コロナウイルス対策が炎からの脱出を妨げたと信じていた。
警察の厳重な警備の中で人々は死を悼んだ。白紙を掲げ、花を捧げ、沈黙していた。
こうした中で、一部の参加者が叫びだした。
「自由を! 我々は自由を求めている! ロックダウンを止めろ!」
夜が更けるにつれ、群衆は大きく、大胆になっていった。27日午前3時には、人々は「習近平は辞任しろ!」と合唱した。
20代前半だという男性は、人々の声を聴いて部屋から飛び出してきたと語った。
BBCの取材に対してこの若者は、「インターネット上でたくさんの人が怒っているのを目にしていたが、抗議のために街に出る人は今までいなかった」と話した。
歴史的な瞬間だと感じたこの場面を撮影するため、この男性はカメラを持ってきていた。
「警察も、学生も、高齢者も、たくさんの人がいる。それぞれ意見は違うが、少なくとも声を上げられる」
「この集会には意味がある。自分にとっても大切な記憶になると思う」
群衆の脇にいた若い女性は、これはスリリングだが、はかない瞬間だと感じたと話した。
「中国でこんな光景は見たことがなかった」
「ちょっとほっとしている。私たちはやっと、長い間言いたかったことを言うために一つになれた」
ゼロコロナ政策によって、人生の一番いい時間を奪われたと、この女性は語った。彼女の世代は収入源や教育の機会を奪われ、旅行もできなかった。時にはロックダウンで数カ月にわたって閉じ込められ、家族と離れ離れになったり、人生の計画を遅らせたり諦めざるをえなかったりした。
若者たちは、ひどい苦痛の中で「怒りと悲しみ、そして絶望」を覚えていた。
この週末には、同じような訴えが中国各地の大都市でも聞かれた。北京の清華大学では、インターネットで見た抗議デモに感化された学生たちが集会を開いた。
SNSなどで拡散されているある動画では、女性が拡声器で、早口で恐る恐る話している。やがてこの女性は泣いてしまったが、群衆は「怖がらないで! 続けて!」と促した。
「批判を恐れて声を上げないのでは、国民に失望されると思う」とこの女性は声を荒げた。
「そうなったら清華大学の学生として、永遠に後悔してしまう」
Reuters
清華大学での抗議の様子
知識があるのか、浅はかなのか
ここ数十年間見ることのなかった政治デモは、年齢層の高い人たちに、1989年の天安門事件を思い出させている。この事件も、自由を求めた学生たちが起こしたものだった。
一方で、若い世代のこの熱量は、天安門事件が犠牲を伴う弾圧によって終わったことを知らないからこそだ、と指摘する声もある。
人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチの中国調査員、王亜秋氏は、「若者ならではの理想主義、つまりつらい記憶がないからこそ恐れ知らずになれるのが合わさって、若者たちは街頭に立って自分たちの権利を要求している」と指摘した。
抗議参加者を過小評価していると指摘する声もある。オーストラリア国立大学の政治学者、宋文笛氏は、「抗議者の若さが、彼らが中国の制度やルールにどれだけ慣れているかを見えなくしている」と言う。
宋氏は、若者たちがいかに「戦術的に巧妙」かを見て驚嘆していると話し、現在の若い抗議者たちは「中国でも最も教育された世代」だと述べた。
「抗議者たちは越えてはいけない一線がどこにあるか、分かっている。その一線を越えないまま、限界に挑戦している」
上海の抗議では、習国家主席の退任を求める声が上がった。しかしその他のほとんどの集会では、政治的すぎると思われる要求は、口にしていない。
証拠にされる文言を避けた結果、白紙が抗議のシンボルになった。警察に「ゼロコロナ政策を止めろ」と言わないよう指示されると、参加者たちは皮肉を込めて、検査と規制を強化しろと合唱した。
宋氏は、「中国政府からの非難を最低限にするために、若者たちがいかに先手を打ってあらゆる事態に対応しようとしているか、注目してほしい」と語った。
デモ参加者たちはまた、自分たちのメッセージをねじ曲げようとする声にも、警戒していた。
北京では、ある男性が「外国勢力」について警告を発した時、周囲から「外国って、それはマルクスやエンゲルスのことか? スターリンか? レーニンか?」とからかわれていた。
中国共産党は、マルクス主義を模範のイデオロギーとしている。
Reuters
上海での抗議は警察との衝突までエスカレートし、逮捕者も出た
北京の群衆はさらに、「新疆で火災を起こしたのは外国勢力か? 貴州省でバスを横転させたのは外国勢力か?」と続けた。
別の男性が「みんなをここに連れ出したのは外国勢力か?」と叫ぶと、大勢が一斉に「違う!」と大声で返した。
「リベラルなナショナリスト」
パンデミック以前、中国の若者たちは自分たちの将来の見通しに大方満足していた。新型ウイルスがこれを変えてしまった。
上海でカメラを構えていた若い男性は、「世界中を旅することも、家族に会うこともできない」と話した。この男性は取材の中で、広州市にいて、がんを患う母が心配だと語った。広州市は11月30日に、ほとんどの地区で新型ウイルス対策の制限を解除している。
「母に会いたい。長いこと会っていないし、顔に触ったり、一緒に夕飯を食べたりしていない」
「このロックダウン政策を解除してほしい。今すぐにでも」
BBCは後日、この男性がこの後に警察に拘束されたことを把握した。
BBCが取材した人々や、インターネットに掲載された動画で話している人たちの多くが、中国の進歩を願っていると話した。
抗議デモでは、参加者が中国の国歌を繰り返し歌っていた。特に、国家を守るために「起来!(立ち上がれ!)」と繰り返す部分が歌われた。
宋氏はこの世代の特徴として、中国が台頭した時代に育ったことで、激しい愛国心を持っている点を挙げた。
国家のシステムを強く信じながら、その失敗に説明責任を求めている点で、若者たちは「リベラルなナショナリスト」なのだと、宋氏は語った。
「親政府的な気持ちは、すぐに反体制に変わる可能性がある」
しかしそこには、この抗議が合法的なものであり、自分たちが法の正しい側にいると証明したい集団的欲求が残っている。
清華大学で撮影された動画では、この抗議がトラブルメーカーに利用されるかもしれないと演者が懸念したところ、群衆は「法を犯す者はここにいない!」と叫び返していた。
その後、男性が心配そうな声で、「コントロールできなくなれば、本当に負けてしまう」と言うのが聞こえる。
「私たちには抗議の経験がない(中略)でも少しずつやり方を覚えていくはずだ」
(英語記事 The new generation powering China's protests)
関連トピックス コロナウイルス 健康 中国 政治 デモ・抗議 若者 デモ
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-63868937
中国、ゼロコロナ政策から脱却図る 習主席の面目を保ちながら
2022年12月6日
スティーヴン・マクドネル北京特派員
Reuters
北京では、新型コロナウイルス感染者の自宅隔離が可能になった。写真は、医療ごみを住宅から運び出す作業員
中国政府の新型コロナウイルス対策について知りたければ、何を言っているかより何をしているかを見るべきだ。
北京市を例にとろう。
感染者数が大幅に減っているわけではない。しかし公共交通機関の利用にPCR検査の結果は必要なくなった。バーやレストランも徐々に営業を再開している。そして、COVID-19にかかっても隔離施設に行かずに自宅隔離ができる事例も出てきた。
何が起こっているのかを調べれば、その方向性は明らかなように思える。中国政府は静かに、「ゼロコロナ」という目標を捨てたようだ。
だからと言って、全ての新型ウイルス対策が終わるわけではない。いくつかの制限が、たとえば半年で終わるということでもない。
しかし、アウトブレイクのたびに新規感染者をゼロまで減らすという目標はなくなった。
新たな計画は、この病気を撲滅しようとするのではなく、ウイルスの感染速度を抑え、できれば医療システムが対応できるようにするもののようだ。
感染や重症化、死者数の流れを管理するために、ウイルスの拡散を監視することになるかもしれない。
いくつかの対策が復活することもあるかもしれないが、都市が動き続けるために、感染者数ゼロを記録する必要はない。
北京市だけがいくつかの対策をやめているわけではない。その方法も地域によってさまざまだ。
南東部の浙江省では、特定の職業に就いている人以外は、定期的な検査は受けなくてよくなった。
東部・山東省でも、せき止め薬の購入時や高速道路での運転での検査がなくなった。湖南省は、住宅地へ入るときのPCR検査をとりやめた。
こうした緩和が上海、武漢、重慶、広州、深圳、成都といった大都市でも見受けられる。
西部・新疆地区のウルムチでは、スーパーやホテル、映画館、ジムなどが営業を再開した。チベットでも公共交通機関が運行し始めた。
ほんの数週間前には、中国政府は国民にゼロコロナ政策に従うよう求めていた。
この政策が中国経済と人々の生活に打撃を与えているという大量の証拠があるにもかかわらず、習近平国家主席は先の中国共産党全国代表大会で人民大会堂に立ち、この政策を変えることはないだろうと強調した。
そして、抗議が起こった。
10人が死亡したウルムチのアパート火災が、人々の怒りの波を引き起こした。
ソーシャルメディアでは、火災で犠牲者が出たのは、新型ウイルス対策が消防隊の現場へのアクセスと住民の避難経路をふさいでいたからだという意見が見られた。中国政府はこれを否定しており、BBCも証拠を得ていない。しかしこの火災が中国全土にデモを広げたのは間違いない。
<関連記事>
あらゆる都市で、人々がゼロコロナ政策終了を求め、これまでの生活に戻りたいと語った。習国家主席の辞任を求める声もあがった。
共産党に対する国民の反感がここまで活動として広がったのは、1989年の、天安門での犠牲者を伴う弾圧につながった政治騒動以来だ。
そして突然、変化が訪れた。中国の人々は、いかに抗議が実を結んだか冗談を飛ばしあっている。
先週の江沢民元国家主席の死去も、政府に圧力をかけた。多くの人が江氏の時代を、中国が外部とのつながりを取り戻し、高速成長を遂げた時代として、ノスタルジックに受け止めている。現状との比較は厳しい。
習政権にとってもう一つの危険は、国民の弔意がさらなる抗議行動に発展することだった。数十年前に改革派の指導者である胡耀邦氏が死去した際には、その死を悼んだ集会が天安門事件へと発展したからだ。
こうしたことから、新型対策に対する国民の怒りを極端に過小評価してきた政府が、急に方針を転換した。
いま求められているのが、面目を保ちながらの転換だ。
EPA
北京では、公共交通機関の利用時のPCR検査がなくなった
中国の政治家や政府職員は、人々を必要以上に閉じ込めていたことについて、公の場へ出て謝るようなことは決してしない。
しかし、共産党は国営メディアを通じた国民へのメッセージを変え始めている。今では、新型ウイルスの変異株はそれほど致命的ではないとしている。
これは、中国以外の世界はコロナ地獄に陥っており、安全に暮らせる中国に住んでいることを幸運に思うべきだという、これまでのメッセージとは明らかに違っている。
だが、大きな課題が2つ、まだ残っている。
まず、より多くの人、特に高齢者や感染リスクの高い人たちにワクチンを接種させる努力が不十分な点だ。公式発表によると、80歳以上で2回の接種と追加接種を終えているのはわずか40%。香港では、新型ウイルスでの死者の大多数が、ワクチン未接種の高齢者だった。
次に、病院の集中治療室の増床が挙げられる。当局はこのために何年もの時間があったはずだったが、なお不十分な状態だ。そのため、感染が劇的に増加すれば救急患者が殺到し、医療システムが本当に試されることになる。
こうしたことから、病院が疲弊しないように、物事をゆっくり進めることが目標になる。そうすれば、いつでも制限を再開できる。
中国の新たな道は、時には再び後退することになっても、一歩ずつ出来上がっていくだろう。
(英語記事 China's face-saving exit from zero Covid)
関連トピックス コロナウイルス 健康 中国 政治 デモ・抗議 デモ
https://www.bbc.com/japanese/63884608
中国が「ゼロコロナ」政策を大幅緩和、陽性者の自宅隔離を一部認める
2022年12月7日
中国・上海の新型コロナウイルス検査場
中国政府は7日、新型コロナウイルスの感染を封じ込めるための厳しい「ゼロコロナ」政策の大幅緩和を発表した。無症状あるいは軽症の感染者は、自宅隔離が可能となる。
新型ウイルスの感染者は無症状あるいは軽症ならば、今後は国の施設ではなく自宅で隔離できるようになる。また、検査結果を自己申告できるようになる。
病院と学校を除くほとんどの公共の場において、PCR検査の陰性結果を示す義務もなくなった。国内移動の規制も緩和された
中国の国家衛生健康委員会(NHC)は7日、全土で新型ウイルス対策を緩和するのに伴い、いくつかの新たな規則を発表した。その内容は次の通り――。
- ロックダウンなどの制限は、周辺地域全体や都市全体をロックダウンするのではなく、特定の建物やフロアなどより厳密に定められた特定の範囲に適用されるべきである
- 感染リスクが高いと認定された地域では、新たな感染者が出なければ5日以内にロックダウンを解除する
- 学校の場合は、校内で感染が広がっていないのであれば運営を継続すべきである
新しいガイドラインでは、非常口やドアをふさぐことが禁止され、市民がパンデミック制御措置によって妨げられることなく救急医療や避難経路にアクセスできるようにしなくてはならないとされている。
今回の大幅な方針転換は、中国が厳格なゼロコロナ政策から脱却し、諸外国と同様に「新型ウイルスとの共存」を模索してると示すものとなった。中国では1日の感染者数が3万人以上と、過去最大の感染の波に見舞われている。
これまで中国は、感染者と濃厚接触者を隔離施設に強制収容していた。家族が引き離されたり、自宅から排除されることから、市民の間で非常に不評だった。
今年に入ってから、警備員が市民を家から引きずり出す様子をとらえた動画が浮上している。杭州市で先週撮影された動画には、当局者に抵抗する男性が映っていた。
中国全土では1週間前、新型ウイルス対策に対する市民の抗議行動が起きたばかり。
閉じ込めや建物封鎖に抗議
ロックダウン措置が敷かれた地域ではこれまで、市民が家に閉じ込められたり、建物が封鎖されたとの報告があがっていた。
新疆ウイグル自治区ウルムチ市では先月、高層住宅で火災が発生した際に感染対策の行動制限が原因で住民が脱出できなかったなどと指摘され、これをきっかけに感染対策への抗議行動が起きた。中国政府は疑惑を否定している。
中国ウルムチで異例のデモ 住宅火災で10人死亡を機にコロナ対策に抗議
ほかにも、ロックダウン下の地域で救急医療に遅れが生じているとの報告が繰り返し寄せられている。
中国当局は7日、高齢者へのワクチン接種を加速させる必要性も強調した。
保健当局は声明で、「すべての地方で(中略)60〜79歳の接種率を向上させ、80歳以上の接種率を加速させ、特別な準備を取ることに重点を置くべきだ」とした。
11月24日から26日にかけての抗議行動を受け、中国当局はすでに新型ウイルスの危険性に関する論調をトーンダウンし始めており、一部の都市ではロックダウンを緩和している。
孫春蘭副首相は先週、新型ウイルスの病気を引き起こす能力が弱まっているとし、中国がパンデミックの「新たな状況」に突入しつつあると述べた。
高齢者のワクチン接種が緩和の「鍵」
人口14億人の中国では医療制度をひっ迫しかねないほど感染者が急増する可能性があるため、複数の専門家は中国でのゼロコロナ政策の緩和はゆっくり行う必要性があると警告している。
高齢者へのワクチン接種スピードを速めることが鍵になると、医療の専門家たちは指摘する。
香港大学のアイヴァン・フン教授は今週初め、BBCに対し、「中国が最も被害をおさえてコロナから脱出するための1番の方法は、ワクチン接種だ。3回のワクチン接種が必須だ」と語った。
「できれば旧正月(2023年1月)前に実施できるといい。旅行や帰省で大勢が移動することになるので」
(英語記事 China eases Covid quarantine and lockdown measures)
関連トピックス コロナウイルス 健康 中国 政治 デモ・抗議 アジア デモ
(投稿者より)
この抗議運動は中国の民主化を願う一部の方々から「白紙革命」と呼ばれ、習近平体制に大きな打撃を与えるものと予想(期待?)されていましたが、当局が硬軟を織り交ぜた対策を取ったことにより収束が見えてきたようです。