「露は『サハリン2』事業を1国支配へ、三井・三菱は出資継続か撤退かの選択を迫られる」(RFI・Sputnik日本)
(La Russie reprend en main le projet de pétrole et de gaz Sakhaline-2: RFI)
https://www.rfi.fr/fr/europe/20220701-la-russie-reprend-en-main-le-projet-de-p%C3%A9trole-et-de-gaz-sakhaline-2
ロシアがサハリン2の石油・ガス事業を引き継ぐ
発表 2022年7月2日 01:22
モスクワは大統領令を公表し、「サハリン2」石油・ガス事業を引き継ぐことを表明した。露ガスプロム社や蘭シェル社に並び、日本企業2社がこれに出資している。AFP - KIRILL KUDRYAVTSEV
文 RFI
「サハリン2」石油・ガス事業の引き継ぎを公表するモスクワの大統領令について、日本はこれを「慎重に検討」すると述べた。露ガスプロム社や蘭シェル社に並び、日本企業2社がこれに出資している。西側やその同盟国に対するモスクワの経済戦争において、ウラジーミル・プーチン氏は今や迷わずに外国人出資者を攻撃するようになった。
日本にとってこの衝撃が計り知れないことは間違いない。日本の液化天然ガス輸入の8%がロシア産だが、ウクライナへの攻撃が始まって以降この国のビジネス環境は厳しくなっている。他の外国企業数社がこの事業から撤退した。
日本は、国がモスクワに対する制裁に参加しているにも係わらず、サハリン2事業では存在を維持しているが、今やこれを手放すよう強要される怖れがある。
木曜日にウラジーミル・プーチン氏が署名した大統領令により、ガスプロム社が主体の企業連合であるサハリン・エナジー・インベストメント社の権利と義務を引き継ぐ責任を持つ、新しいロシア企業が設立される。株式の50%弱は、日本の三井物産・三菱商事の2社と英蘭のシェル社が保有している。
これらの外国のパートナー企業は、新しいロシア企業への出資を望むかどうかを表明するために1ヵ月の時間を与えられている。望む場合には、彼らは改めて当局のゴーサインを待つ必要がある。言い換えれば、クレムリンは正式な買収のための地均しをしている。シェル社と日本側の双方がこれに不意を突かれ、大統領令の内容を検討すると述べた。
►読む:G7:「ロシア産原油の価格上限―ガス・プラント建設は政治的意図のためだ」
ロシア エネルギー 石油 日本
―参考―
(Sputnik日本)
https://jp.sputniknews.com/20220702/2-11806555.html
「サハリン2」、事業主体をロシア企業へ:懸念する理由はあるのか?
2022年7月2日, 16:30
© Sputnik / Srgey Guneev
タチヤナ フロニ
ロシアは、極東サハリンで進められている石油・天然ガス開発プロジェクト「サハリン2」について、その事業主体を、新たに設立するロシア企業に変更すると決定した。このプロジェクトに出資している日本(三井物産が12.5%、三菱商事が10%)は、この決定の目的と結果について検証する意向である。しかし、日本政府は全体として、これによって、日本に損害をもたらされることはなく、また日本への液化天然ガス(LNG)の供給が即時停止されるようなこともないと確信している。とはいえ、この突然の事業主体変更にはどのような理由があるのだろうか。また日本がこのプロジェクトにおける権益を失う現実的な脅威にさらされるような要素はあるのだろうか。
ロシア政府側の動機
ロシア科学アカデミー極東研究所日本研究センターのエネルギー問題専門家であるコンスタンチン・コルネーエフ氏は、今回の動き(事業主体の変更)は、現在の地政学的現実の下、ロシアにとって予測不能なものではあるものの、十分に論理的なものであると指摘している。
「これまでにシェルはエネルギー分野におけるロシアとのあらゆるビジネスを完全に停止すると発表しています。シェルの行動は、合意の「文言と精神」に反するものです。というのも、シェルのプロジェクトからの撤退は地政学的な理由のみを動機としているからです。そこで、ロシアが(外国企業の義務違反を理由に)自国の国益を守るために、特別な経済措置を講じても驚くべきことではありません。そして、日本企業にとっては本質的には何も変わりません。しかも日本側はこのプロジェクトを継続する意向を明らかにしています。そのために、日本企業に対しては、引き続き権利(合計22.5%)を保有するための申請を行うのに1ヶ月という期間が与えられているのです」
サハリン2の天然ガスはすでに何年も先まで契約されている(シェルは2028年まで)ことから、新たな事業主体との条件はきわめて重要なものである。
これはシェルが、日本や韓国といった主な購入者に、15~20億立法メートルの天然ガスを供給しなければならなかったことを意味しているとコルネーエフ氏は付け加えている。
再編「サハリン2」をめぐる状況
「サハリン2」の大統領令で即座にガス供給が止まることはない=ぺスコフ報道官
7月1日, 23:15
日本にリスクはないが、危険性は現れてくる
「このように、シェルは合意の精神に反するだけではなく、現在の(サハリン2のガス供給の)契約の転売をおこなっています。日本の企業もすでにガス供給の契約を結んでいます。従って、ロシアにとっては、日本企業がシェルと同じように『扉を閉めてしまう』よりも、プロジェクトを継続してくれた方が有益(両国の利益)なのです。つまり、日本の利益を損なうものは何もありません。ただ一つ、日本にとってあまり好ましくない点があるとしたら、それは、プロジェクトが国際的なものではなくなり、事実上、ロシアのものになるということです。サハリン・エナジーが保有するすべてが、新たに設立されるロシア企業を通じて、ロシアに譲渡されます。つまり、非友好国に対して、プロジェクトからの撤退を要請する権利がロシア側に残されるということです。これが日本にとっては唯一の『脅威』です。対露制裁を発動するという日本の『決意』が自国の経済における利益を損ねる可能性があるからです」
この場合、ロシアは日本企業の権益を認めない可能性もある。
しかし、その後、その権益は売却され、資金は損害分を差し引いて日本側に返還されることになる。
これが、なぜ日本政府が今後の出方を決めるのに、ありとあらゆるリスクを調査、評価するため時間を取った理由の一つである。
再編「サハリン2」をめぐる状況
日本、「サハリン2」残留を画策か=英報道
7月2日, 06:01
なぜ日本はシェルに比べ、決定を下すのが難しいのか?
このように露骨な反露的な発言が、日本のビジネスにとって、また7年ぶりに節電を余儀なくされている日本国民にとって利益とならないことははっきりしている。
これについて、コルネーエフ氏は次のように述べている。
「英国のシェルにとって、『サハリン2』からの撤退は、日本のビジネスに比べれば、それほど深刻なものではありません。日本が地理的にロシアからとても近いことを考えれば、日本にとって、サハリンのプロジェクトはきわめて有益なものです。輸送もしやすく、費用も最低限で済むというのは、とても重要なことです。ちなみに、(ペルシャ湾岸から日本に輸送される)LNGと石油の値段の3分の1は輸送費です。また、シェルはさまざまな国に多くの株を持つ多国籍企業です。英国にとって、『サハリン2』からの撤退は原則的なものであり、英国政府はそれぞれの国に対して何らかの補償を行う可能性があります。しかし、日本にとって、何よりも重要なのは、エネルギー安全保障です。そして、(輸入全体の9%を占める)サハリンのプロジェクトがなければ、エネルギー安全保障が損なわれることは明白です。日本はより脆弱な国になるでしょう。というのも、それを代替するのは難しい、あるいは不可能に近いからです」
コルネーエフ氏曰く、後で、考えを改め、プロジェクトに復帰することはできなくなり、また別の有益な石油・ガスプロジェクトの「空席」を今後、模索していく必要に迫られるからである。
「ちなみに、『サハリン2』のシェルの権益(27.5%)は、おそらくインドのエネルギー関連コンソーシアム(企業連合)に売却されることになると言われています。インドは今、シェルに代わってこのプロジェクトに参加することに非常に関心を持っています。というのも、地政学的理由により、インドは流動性の高い資産を大幅な割引価格(事実上、市場価格以下)で買うことができるからです。中国は、西側からの二次制裁を恐れて、今のところ、慎重な姿勢を見せています。インドも慎重ではあるものの、中国よりは大胆に動くことができます。なぜならインドは、米国にとって、アジアにおけるきわめて重要な戦略的同盟国の一つだからです」
日本政府指導部は、現在のところ、今後の方策については、日本のエネルギー関連企業などと協議するとしている。また岸田首相は、LNGの輸入禁止は日本の対露制裁の対象となっていないと指摘している。
関連ニュース
サハリン2 オピニオン サハリン 国際 ガス エネルギー危機 露日関係
(Sputnik日本)
https://jp.sputniknews.com/20220706/2-11860212.html
酷暑と「サハリン2」 日本のエネルギーが直面した2つの挑戦
2022年7月6日, 17:15
© Sputnik / Владимир Песня
リュドミラ サーキャン
日本では、通常より短い梅雨明け後に到来した猛暑と、「サハリン2」のLNGプロジェクトの予想外の展開により、おそらくやってくる電力危機の克服に向けた議論が白熱している。「サハリン2」のオペレーターの変更で日本を憂慮させているのは、プロジェクトに参画する日本企業の地位だけでなく、日本のエネルギー安全保障を脅かすリスクだ。こうした背景で日本政府は7月1日から3ヶ月間、全国規模の節電キャンペーンの実施を発表した。
日本は節電は経験済み
夏の暑い時期や冬の寒い時は、エアコンやヒーターがさかんに使われるため、電力消費量が増加する。そのため、不要な電化製品や照明を消したり、洗濯物のまとめ洗いが奨励されている。
消費するエネルギーの53%を占めるのがエアコンだが、電力消費時のピークを避ける節電対策の対象はこのエアコンは入れられなかった。政府の呼びかけに日本企業も応え、エネルギーを最も多く消費する業務をピーク時から他の時間帯にシフトする、看板のネオンを消す、露出広告の照度を下げるといった協力を行った。節電した人には、ポイント制の特典が奨励されている。
再編「サハリン2」をめぐる状況
「サハリン2」、事業主体をロシア企業へ:懸念する理由はあるのか?
7月2日, 16:30
とはいえ、日本にはすでに省エネを経験済みだ。福島原発事故後に一気に数十基の原発が稼働停止となった時に初めて節約体制がしかれた。当時、電力消費を抑えるための工夫はいろいろ試行されており、公共施設でエスカレーターの一部が停止していたり、ほとんどの場所で不要な照明が消されていた。これを支えたのは主に、個人の快適さを犠牲にしてでも全体の利益に貢献しようとするという日本人の気質が大きな役割を果たした。
日本の危惧感をさらに増した「サハリン2」の再編成
6月30日、プーチン大統領は、大陸棚プロジェクト「サハリン2」のオペレーター変更を指示する大統領令「特定の外国および国際組織の非友好的な行動に関連した燃料エネルギー分野における特別経済措置の適用について」に署名した。
この大統領令により、サハリンエナジーの外国人株主である日本の三井物産(12.5%)と三菱商事(10%)の株式は新たに設立されるロシアの法人に移行される。事業に出資していた株主は、新会社の事業を継続するか否かを1ヶ月以内に決定しなければならず、継続しない場合は、株式は売却される。
再編「サハリン2」をめぐる状況
日本 「サハリン2」めぐる大統領令についてロシア側に説明求める=林外相
昨日, 12:28
日本はこの大統領令に抑制した反応を見せた。岸田首相は、これが直ちに日本へのLNG供給停止を意味するものではないとの確信を示した。日本政府は次の段階を検討しているが、日本のメディアはこれに激高した論調を展開している。
北海道新聞は「日本の電力やガス会社はサハリンエナジーと長期購入契約を結んでいるが、今後はLNGの調達に影響する恐れがある。一方的な主張であり、ロシアは国際ビジネスでいっそう信頼を失うと言わざるを得ない。大統領令は商慣行や信義則に反し、到底容認できない。日本政府は強く抗議すべきだ」と主張する一方で、「日本政府は今回のような事態を予想できたはずだが、権益維持を強調するばかりで代替調達先を確保する表立った動きはなかった。見通しが甘かった面は拭えまい」と日本政府の落ち度を批判している。
ジレンマに直面する日本 専門家の見解
ロシアの特別プロジェクト「国家エネルギー安全保障基金」を率いるアレクサンドル・ペロフ氏は、日本は今回のロシアの措置は日本が西側の対露制裁に加わったために発生したことは理解しているものの、日本のエネルギー状況は燃料輸入に大きく依存しているために極めて脆弱であるという事実も理解しているとして、次のように語っている。
「日本はジレンマに直面している。サハリン2を放棄すれば、日本は世界市場で新たにLNG量を確保することに躍起にならざるを得ない。世界市場のLNG需要は、米国最大のLNG輸出ターミナルの一つが火災で被害を受け、その再建に数ヶ月かかることを考えると、今、極めて高い。LNGを他のエネルギー資源で代替することも日本はできない。石炭市場も極めて緊張度が高い状況にある。日本はロシア産石炭も禁輸しており、石炭先物価格は過去最高を更新している。危機脱却の唯一の策は、福島第一原発事故の後に停止している原子力発電所の再稼働で、これを多くの日本の専門家が主張している。しかし、日本政府にとって原発の再稼働は第一に急ピッチにはいかず、第二に技術的にだけでなく、政治的にも困難だ」
ペロフ氏は、日本がサハリンへの参画を堅持しようとするパターンもありえると考えている。日本は、撤退して空いた場所を中国がさっさと占めるということは非常に望んでいない。それに最悪の場合、現在、過去最高価格に達しているスポット市場でLNGを購入するはめになり、スポット購入したところで国内のすべてのガス需要を賄うことはできない。
日本経済新聞は、日本企業がサハリン2から一方的に撤退した場合の累積損失は試算で150億ドル(2兆円以上)にものぼると報じている。
再編「サハリン2」をめぐる状況 オピニオン 国内 ガス 経済 ロシア 露日関係
※2022.9.4 見出しを変更しました。事業主体の国籍をバミューダからロシアに変更し、併せて持分の構成を見直すという、今回の措置の主旨に沿うようにしました。