【解説】 米中は台湾をめぐる戦争へと向かっているのか (BBC NEWS JAPAN)

【解説】 米中は台湾をめぐる戦争へと向かっているのか (BBC NEWS JAPAN)









https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-61793509





【解説】 米中は台湾をめぐる戦争へと向かっているのか





2022年6月14日





テッサ・ウォン、BBCニュース、アジア・デジタル記者







Reuters

中国の魏鳳和国防相は、台湾をめぐるアメリカ側の最近の発言を非難した






台湾をめぐってアメリカの大統領が中国に警告を発してから数週間がたち、中国がこれまでで最も厳しい反論を行った。台湾の独立について、「いかなる試みも断固として粉砕する」と述べた。





中国の魏鳳和国防相は、12日にシンガポールで開催されたアジアの安全保障サミット「シャングリラ・ダイアローグ」で、アメリカが台湾の独立を支持していると実質的に非難。「台湾に関する約束を破り」、中国の問題に「干渉している」と述べた。



また、「次のことを明確にしておく。もし誰かが台湾を中国から分離させようとすれば、私たちはためらわず戦う。どんな犠牲を払っても、最後の最後まで戦い抜く。これが中国の唯一の選択だ」と話した。



この発言は、ジョー・バイデン米大統領が5月23日に、中国が戦闘機を台湾に接近させて「危険をもてあそんでいる」と述べたことを受けたものだ。バイデン氏は、台湾が攻撃されれば、アメリカが軍事的に保護すると明言した。



台湾は自らを主権国家だとしているが、中国は長年、台湾の領有権を主張している。台湾はアメリカを最大の同盟国と考えており、アメリカは台湾の自衛への支援を国内法で義務づけている。



今回の言葉の応酬は、中国が台湾の防空識別圏に戦闘機を飛ばすことが増えている中で起きている。中国は先月、今年最大規模の軍用機の飛行をしたばかり。アメリカは海軍の艦艇を台湾の海域に派遣している。



アメリカと中国は、軍事衝突に向かっているのだろうか?





ギャップを慎重に検討



大きな懸念となっているのが、中国が台湾に侵攻して戦争が勃発するというケースだ。中国は以前、必要なら武力で台湾を取り戻せると表明している。



しかし、ほとんどのアナリストは、その可能性は低いとみている。今のところは。



侵略を成功させる軍事力が中国にあるのかは議論が分かれる。台湾は、空と海の防衛をかなり強化している。



しかし多くのアナリストは、侵略のような行動は中国だけでなく世界にとってあまりにもコストが大きく、破滅的になることを中国は認識している、という見方で一致している。



シンガポールの東南アジア研究所のウィリアム・チュン・シニアフェローは、「多くの発言が出ているが、中国が台湾に侵攻するつもりなら、そのギャップを非常に注意深く見なければならない。ウクライナ危機にとても近い時期ではなおさらだ。中国経済はロシアよりはるかに世界経済と相互につながっている」と言う。



中国は一貫して、台湾との「平和的統一」を目指す姿勢を示している。挑発行為に直面した場合のみ行動す起こすというもので、魏国防相も12日、この立場を改めて表明した。



引き金となりうるのが、台湾の正式な独立宣言だ。だが、台湾の蔡英文総統は、台湾がすでに主権国家だと主張する一方で、独立宣言は強く避けている。



台湾人の多くは「現状維持」のこの姿勢を支持している。ただ、独立に向けた動きを望む人は少数派ながら主張を強めている。







Taiwan Presidential Office

戦車砲を手にした台湾の蔡英文総統。台湾当局が公表したこの写真は急速に拡散された(6月2日撮影)






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同様にアメリカも、アジアでの費用のかかる軍事衝突に巻き込まれたくないだろう。これまで繰り返し、戦争を望んでいないことを表明してきた。



ロイド・オースティン米国防長官も「シャングリラ・ダイアローグ」に出席し、米国は台湾独立を支持しないし、「新たな冷戦」も望んでいないと演説した。



シンガポールのS・ラジャラトナム国際関係研究所のコリン・コウ研究員は、「双方とも台湾をめぐって自らの立場を守り続けている。強く見せる必要があり、弱くなっているとか後退しているとか思われたくない」と話した。



そして、「同時に双方は、明確な紛争に突入することに非常に慎重だ。互いの発言に目をこらし、リスクを減らそうとしている」とした。



さらに、「シャングリラ・ダイアローグ」の会議の傍らで魏国防省とオースティン国防長官が会談したことは、明るい兆しだとコウ氏は説明。双方が「座って話し合い、合意に至り、意見が不一致なことで一致する意思がある」ことを示したいと思っていたことを意味すると述べた。



これにより、両国の軍の間で作戦に関する議論が増え、紛争につながりかねない現場での誤算の可能性が減ることになると、コウ氏は話した。そして、ドナルド・トランプ前政権時代に欠けていた、総合的な「対話の再活性化」につながる可能性が高いとした。







EPA

東京で「クアッド」首脳会談に出席したジョー・バイデン米大統領。この前日の記者会見で、中国が台湾をめぐって「危険をもてあそんでいる」と述べた






とはいえ、中国もアメリカも当面、言葉の応酬を続けることが予想される。



シンガポール国立大学の中国専門家イアン・チョン博士は、台湾の軍事力と忍耐力を消耗させるため、中国が戦闘機の増派や情報操作といった「グレーゾーン戦争」を強める可能性もあると指摘する。



台湾はこれまで、中国が台湾の選挙をにらんで、偽情報キャンペーンを行っていると非難している。台湾では今年末、重要な地方選挙が予定されている。



ただ、少なくともアメリカと中国は、今のところ「立場を変えようという政治的意思はない」と、チョン博士は話した。アメリカでは11月に中間選挙があり、中国でも今年後半に第20回共産党大会が開かれ、習近平主席がさらに権力を固めると予想されるなど、大きな出来事が控えている状況では特にその傾向が強いという。



「明るい材料は、双方が事態のエスカレートを望んでいないことだ」とチョン博士は述べた。



「しかし、エスカレートしないからといって、よりよい状況になるとは限らない。だから、私たちは全員、しばらくは現在の立場を取り続けることになる」





(英語記事 Are the US and China heading to war over Taiwan?





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―参考―