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日本で悲願のインフレ到来 なぜ悪夢に転じうるのか (BBC NEWS JAPAN)

日本で悲願のインフレ到来 なぜ悪夢に転じうるのか (BBC NEWS JAPAN)









https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-61562428





日本で悲願のインフレ到来 なぜ悪夢に転じうるのか





2022年6月9日





大井真理子、アジアビジネス担当編集委員







日本では食品価格が数十年間、ほぼ変わっていなかった





日本で育った私は、子供の時から「値上がり」を実感したことがなかった。去年までは、大好きな500円の1コインランチをあちこちで楽しめたし、洋服や靴が高くなったと感じることもなかった。



投資にもあまり熱心ではなかった。「バブル崩壊でこの家の価値が急落した」と幼い頃から聞かされていたため、市場の影響を受けない貯蓄のほうが安心だと信じ込んでいた。それで問題はなかった。



いずれも、お金の価値が下がらない「デフレ」環境ならではのことだ。



しかし日本の経済成長を考えると、デフレは悪影響だ。長期的にモノの値段が上がらないため、企業は売り上げが伸びず、業績は悪化する。従業員の給与も上がらず、消費者は買い物を控える。企業はどうにか売ろうとさらに値下げをし、物価が一段と下がる――という悪循環の「デフレ・スパイラル」に陥ってしまう。



その結果、アジアでは各国が豊かになる一方で、日本は1990年ごろから経済が停滞。2010年には、世界第2位の経済大国のポジションを中国に譲った。











デフレ・スパイラルから抜け出すため、日本銀行はここ10年近く、「2%の物価上昇」を目標に掲げてきた。



「人々が消費し、投資し、給与が上がり、物価も徐々に上がることで経済を活性化させることが目的だった」と、コンサルティング会社EYパルテノンのパートナーの小林暢子さんは説明する。



日本の消費者物価は今年4月、ついに2%の上昇を達成。しかし、その原因は消費者の需要増ではなく、コロナ禍やウクライナでの戦争などの外的要因によるエネルギー高騰と原材料価格の上昇だった。



「給与が同時に上がらない場合、悪いインフレの始まりとも言える」と小林さん。たしかに、日本では賃金が30年以上ほとんど変わっていない。











今回のインフレは世界的なもので、各国が影響を受けている。ただ、何十年も値上がりを経験してこなかった日本では、国民への衝撃がひときわ大きい。



特に大きなニュースとなったのが「うまい棒」だ。1979年の発売以来ずっと10円だったが、12円に値上げした。



日本では長年、値上げはタブー視されてきた。うまい棒を企画・販売する東京の会社やおきんは、値上げについて広告を出した。







Yaokin

やおきんは、うまい棒の値上げに関する広告を出した






原油価格の高騰や円安の進行を背景に、日本では「値上げラッシュ」が続いている。帝国データバンクによると、今年これまでに値上げした品目数は1万を超え、値上げ率は平均で13%に上っている。





日銀のジレンマ



日本ならではのチャレンジもある。米連邦準備制度理事会FRB)など多くの中央銀行が、インフレ抑制のため金利を上げる中、日銀の黒田東彦総裁は「金融引き締めを行う状況には全くない」と強調しているのだ。



その結果、日米の金利差が拡大し、円安が急激に進行。輸入品の値段がぐっと上がり、インフレの一因となっている。



「日本の消費者はインフレを受け入れることに慣れていない」と言うのは、サントリー新浪剛史社長。原材料価格の高騰を理由に、同社は10月からの値上げを発表しており、卸業者や小売店と交渉中だ。



「全般的には納得していただけているが、大規模販売店からは抵抗もある」と言う。







サントリー新浪剛史社長は、サプライチェーンの問題も値上げの一因だと話した





日本で物価が上がっている今、どうすれば給与も上がるのか?



新浪社長は「社会や日本政府から、賃上げの強いプレッシャーを感じている」と言う。「しかしそのためには、生産性を向上させなくてはいけない」。



「急に生産性を高めることは難しい。業界の効率向上のために、整理統合が必要だ。また、グリーンイノベーションやヘルスケアなどの新しい業界に投資することで、雇用を生み出せる。そうすれば平均賃金も上がるだろう」



日本にとって生産性の向上は、デフレ脱却と同じくらい長年の課題だ。



超円安の今、期待されるのは訪日観光客の増加によるインバウンドの急回復だ。しかし、入国者数の制限といったハードルも残っている。



世界的インフレは終わる気配はない。日本の消費者の多くは、給与が上がらぬまま、慣れない値上げのしわ寄せを感じ始めている。





協力:アンジェラ・ヘンシャル





(英語記事 Cost of living: The shock of rising prices in Japan





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