【解説】 アフガン情勢はどうアジアを震撼させ、中国を勢いづかせたのか (BBC NEWS JAPAN)

【解説】 アフガン情勢はどうアジアを震撼させ、中国を勢いづかせたのか (BBC NEWS JAPAN)









https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-58317758





【解説】 アフガン情勢はどうアジアを震撼させ、中国を勢いづかせたのか





2021年8月25日





テッサ・ウォン、ジャオイン・フェン(BBCニュース・シンガポール、米ワシントン)







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カマラ・ハリス米副大統領はアジアを歴訪し、同盟国を安心させようとしている






世界中の多くの人がそうであるように、アジアの数百万人もの人々が、アフガニスタンから発信された絶望的な光景に衝撃を受けている。そして、「まだアメリカのことは信用できるのか」と疑問を口にする人もいる。



アフガンの首都カブールが武装勢力タリバンの手に落ちてからわずか1週間後の22日夜、カマラ・ハリス米副大統領はアジア歴訪の最初の訪問地シンガポールに降り立った。



それ以来、ハリス氏はアジア地域がアメリカにとって「最重要事項」だと述べ、タリバンがアフガンを掌握したことで生じた混乱を鎮めようとしている。



しかし、それだけで不安を抱えるアジアの人々を安心させられるのだろうか。そして、反米プロパガンダを展開する「絶好の機会」に乗じようとする中国をかわせるのだろうか。





不安の声



シンガポールのリー・シェンロン首相は23日、アジアの多くの人が、アフガンがタリバンに掌握された中でアメリカがどのように態勢を立て直すのか注視していると警告した。



アメリカのアジア最大の同盟国である韓国と日本では、アメリカに対する国民の信頼度はおおむね影響は受けていない。しかし一部からは不安の声が上がっている。



韓国の保守派の中には、戦時に後ろ盾になってくれるというアメリカの約束を完全には信用できないとして、自国の軍事力強化を求める声もある。



アメリカは現在、日本と韓国に数万の部隊を駐留させているが、「アメリカ第一主義」を掲げたドナルド・トランプ前大統領の外交政策では両国との関係はぎくしゃくしていた。



ジョー・バイデン米大統領は先週の米ABCニュースのインタビューで、アフガニスタンと、韓国や日本、台湾などの同盟国との間には「根本的な違い」があると強調。「比較すらできない」と述べた。







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タリバンによるアフガン掌握はアジアの多くの人を不安にさせた。写真は首都カブールを車で巡回するタリバン戦闘員(23日撮影)






専門家もバイデン氏と同意見だ。アフガンは、独自の充実した軍事資源や健全な政府を持つ、より発展したアジアのほかの国とは違うと、専門家は指摘する。そうした国々はアジアの民主主義国家として、アメリカと同様の価値観を共有し、重要な貿易・軍事パートナーとなっているとする。



また、韓国のような場所はアメリカのアジアにおける軍事戦略の基盤となっていることから、アメリカがすぐに軍を撤退させることはないだろうとの観測もある。





アメリカは破壊をもたらす」



しかし不確実性が渦巻く中、中国は徐々に自らの論調を強めている。



中国の王毅外相は先週、米軍の「性急な」アフガン撤退が「深刻な悪影響」をもたらしたと述べた。一方で、一部のタカ派の政界有力者や国営メディアは、さらに踏み込んだ発言をしている。



中国外務省の趙麗健報道官は、繰り返し1975年の「サイゴン陥落」と比較。同省の華春瑩報道官は、「アメリカが足を踏み入れた場所はどこもかしこも(中略)混乱や分断が生じ、家族が崩壊し、死者が出る。そしてアメリカが放置した混乱の中に傷跡が残る」とし、アメリカは「破壊をもたらす」と述べた。



国家主義的な中国国営紙グローバル・タイムズ(環球時報)は、台湾に対し、「反中国大陸をうたうアメリカの戦車と同調する」のをやめるよう求める社説を掲載。アメリカは台湾をめぐり、高い犠牲を払うような戦争を中国とはしないだろうと主張した。



同紙編集長も、「アフガン政権が崩壊し、台湾当局は震えあがっているはずだ。アメリカが守ってくれると期待してはいけない。台湾当局はつべこべ言わずに五星紅旗(中国国旗)を中国大陸から通販で取り寄せる必要がある。いつかPLA(中国人民解放軍)に降伏するときに役立つだろう」とツイートした。











アメリカから武器を購入している台湾は自らを独立した国家だとみなしている。しかし中国側は、台湾は武力を使ってでも取り戻さなければならない、反乱を起こした省だとしている。



台湾はここ数日、中国をタリバンになぞらえて繰り返し反撃している。蘇貞昌・行政院長(首相)は先週、台湾を侵略しようとする「外国勢力」は「思い違いをしている」と述べた。



呉釗燮(ジョセフ・ウー)外交部長は、「台湾の人々の願いと最善の利益を支持してくださりありがとう。この願いと最善の利益とは民主主義、そして共産主義権威主義、人道に対する罪からの解放だ。中国はタリバンのまねごとを夢みているが、率直に言って、我々には自衛する意志と手段がある」とツイートした。











バイデン米大統領はABCのインタビューで、台湾を韓国や日本と混同しているような発言をしていた。ほかの国とは異なり、台湾はアメリカと正式な防衛条約は結んでおらず、暗黙の安全保障しかない。



米政府関係者はその後、台湾政策における「戦略的あいまいさ」に変わりはないとしたが、この出来事は中国国営メディアにさらなる反発のネタを与えることとなった。



アフガン撤退は言い換えれば、中国にとって、アメリカは信用できないとアジアの人々を説得するための絶好の機会になっていると、専門家は指摘する。



シンガポール国立大学政治学准教授イアン・チョン氏は、中国の「プロパガンダにおいて肝心なのは、アメリカと密接な協力関係にある各国政府に対する国民による圧力を高め、その関係を弱体化させることだ」と述べた。





慎重に対応する中国



ただ、アフガン情勢は中国にとって完全な棚ぼたとはいえない。



ジャーマン・マーシャル財団のアジア専門家ボニー・グレイザー氏は、中国政府が最近のアフガン情勢の変化について、利益よりもリスクが大きいとみていると考えている。



「中国は情勢が不安定になる可能性や、アフガンが過激派やテロリストの温床であり続けることを非常に心配している」



実際に中国は先月、タリバン幹部を同国に招いて会談を行い、アフガンへの経済支援を提案した一方で、アフガンをテロリストの拠点にしてはならないと強調した。中国は、同国の複数企業がアフガンでの数百万ドル規模の石油や銅の採掘契約を獲得していることから、アフガンに投資を行っている。







Reuters

中国・天津で会談した中国の王毅外相(右)とタリバンのアブドゥル・ガニ・バラダル師






しかし国内的には、タリバンに強い嫌悪感を抱く一部の中国国民に、この慎重な同盟関係を納得させるのに苦戦している。



タリバンが先週にアフガンの権力を奪還すると、中国外務省の華春瑩報道官は、中国として「アフガンの人々の選択」を尊重すると述べた。この発言はすぐに中国のソーシャルメディア上で反発を招き、問題をごまかしていると非難された。



中国では女性の権利に関する意識が高まっており、インターネット上ではタリバンのアフガン女性に対する扱いを批判する声が多く上がっている。



また、中国政府は過激派対策の名の下に、自国の少数派イスラム教徒を残忍に取り締まる一方で、今や国境を接するアフガンのイスラム過激派グループに対処しなければならないという事実も関係がある。



ウイグル族に対する弾圧で、「中国中央政府は国民に宗教団体への警戒心を抱かせている。そのため、今回のタリバンとの関係は(これまでの政策と)矛盾していて問題になるかもしれない」と、シンガポール国立大学のチョン准教授は指摘した。



「中国のいまの動きは、戦術的な優位性を得るためのものだ。しかしそれが(どのような利益に)結びつくのかははっきりわからない。現時点では、アフガンがどこに向かっているのかさえわからない」





全世界がアメリカを注視



ジャーマン・マーシャル財団のグレイザー氏と同様に、アフガン撤退は「アメリカのリーダーシップの死を告げる鐘」になるのではないとみる人もいる。そうした人たちは、米政府がこの地域と、中国との競争にさらに注意を払うようになると、アメリカの同盟国は安心するだろうと考えている。



ハリス米副大統領は24日のシンガポールでの演説で、アメリカはアジアに対して誠実に対応するというビジョンを強調した。



ハリス氏は「我々がこの地域の永続的な利益のために永続的にコミットメントするのに疑いの余地はない。(中略)これらのコミットメントには安全保障も含まれる」と述べ、アメリカは関係強化のために「時間とエネルギーを投入する」と約束した。







Reuters

ハリス米副大統領はシンガポールで、自分の名前にちなんで名づけられたランの花を受け取った






シンクタンク「国際戦略研究所アジア事務所」(II-SS Asia)のジェイムズ・クラブツリー所長は、ここ数カ月の間に、ハリス氏をはじめとしたアメリカの高官がアジアを訪問していると指摘した。



アメリカの高官たちは、『我々の存在を忘れている』という(アジアからの)当初の批判に答えるかたちで、アジアに姿を見せている」



「パートナーシップに関する話し合いが実際に何になるのか、というのが次の新たな疑問だ」



アメリカは約束以上のものを提供する必要があると考える人もいる。チョン准教授は、アメリカのコミットメントに対する超党派のサポートを得ることや、海洋法に関する国連条約の批准、ドナルド・トランプ前政権下でアメリカが離脱した環太平洋パートナーシップ貿易協定(TPP)への復帰などが挙げられるという。



II-SS Asiaのクラブツリー所長は、「アメリカがアジアで何をしようとしているのか、人々はこれからもっと注視するようになるだろう。アフガン情勢をきっかけに、アメリカは信用できない存在だということを示す何かを探すようになったので」



アメリカは自分たちのコミットメントに疑問を持つ人々をより警戒し、そうではないことを証明したいと考えるかもしれない。





(英語記事 How Afghanistan rattled Asia and emboldened China





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