福島原発事故から10年 なお残る影響 (BBC NEWS JAPAN)

福島原発事故から10年 なお残る影響 (BBC NEWS JAPAN)









https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-56342997





福島原発事故から10年 なお残る影響





2021年3月10日







Reuters

福島第一原発に近い家族の墓に手を合わせる女性(2月23日撮影)






10年前の3月11日金曜日の午後、日本で観測史上最大規模の地震が、東日本の太平洋岸を襲った。



マグニチュード9.0の巨大地震は、地軸をずらしたほど強力だった。この地震が引きこした津波で、1万8000人以上が死亡または行方不明となり、複数の自治体が壊滅的な被害を受けた。



福島県大熊町双葉町にまたがる東京電力福島第一原発にも、巨大な波が襲来。電源の喪失を招き、大災害を引き起こした。



政府は隣接地域での居住を制限。原発から放射性物質の放出が増すにつれ、制限区域を拡大した。その結果、15万人以上が避難生活を強いられた。



原発事故から10年がたったが、原発周辺はほぼ当時のままの状態で残され、住民は帰還できていない。関係当局は事故処理の完了まで最大40年かかると予測。政府はすでに処理作業に何兆円も費やしている。







Reuters

東日本大震災は日本の観測史上最大規模の地震だった






福島で何が起きた



東日本大震災と呼ばれるようになる大地震が起きたのは、2011年3月11日午後2時46分だった。



福島第一原発では、地震の感知とともに、原子炉の稼動が自動的に停止された。極度の高熱状態が続く炉心の周りに冷却材を送り続けるため、非常用ディーゼル発電機が使われた。



まもなく、高さ14メートルを超える高波が福島に到達した。防波堤を越えて原発にもなだれ込み、非常用発電機などの電源を失わせた。







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防波堤を越えて福島第一原発を襲った津波








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福島第一原発ではメルトダウンが発生し、水素爆発も起きた






作業員らは電源の復旧に勤めたが、数日中には1~3号炉が過熱し、一部で炉心溶融メルトダウン)も発生した。



水素爆発も相次ぎ発生し、原発建屋が損壊した。放射性物質が大気と太平洋に流れ出し、住民に避難を求める区域はさらに広がった。







東日本大震災から10年、福島を襲った「3つの災害」





影響を受けた人々



原発事故による直接の死者は確認されていない。爆発の際には、少なくとも16人が負傷した。これらの人に加え、原子炉の冷却と原発の安定化に取り組んだ数十人が、放射線にさらされた。



うち3人は被ばく線量が高く、病院に搬送されたと報じられた。



放射線の長期的な影響は、議論が決着していない。世界保健機関(WHO)は2013年の報告書で原発事故によって、関係地域のがん発症率が測定可能なほど高まることはないだろうとした。日本内外の科学者らは、原発に近接する地域を除けば、被ばくの危険性は比較的小さいままだと考えている。



また、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)は今月9日2020年報告を発表し、これまで県民に被ばくの影響によるがんの増加は報告されておらず、今後も放射線による健康影響が確認される可能性は低いと評価した。「放射線被ばくが直接の原因となる健康影響(例えば発がん)が将来的に見られる可能性は低い」と言及している。







EPA

福島第一原発周辺の帰還困難区域の境界はバリケードでさえぎられている(2021年2月、福島県富岡町






一方で、危険はもっと大きいと信じる人も多く、住民らは警戒を解いていない。これまでに多くの場所で居住の制限は解除されたが、元の家に戻った人は少ない。政府は2018年、原発の復旧などの作業に当たっていた労働者1人が被ばくによって死亡したと発表。遺族への賠償に同意した。



多くの死者が出たのは、原発事故発生後の避難の際だった。被ばくへの懸念から移送されることになった入院患者数十人の多くが、途中で亡くなった事案もあった。







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福島では住民たちの放射線の線量が測定された






責任の所在



東京電力と政府に対し、非常事態への備えの不足と、対応のまずさの責任が問われてきた。



政府が組織した独立の事故調査・検証委員会は、福島の原発事故を深刻な人災と断定。東電は大災害に備えた安全対策や計画が不十分だったとした。しかし、東京地裁は2019年、東電の当時の最高幹部3人が業務上過失致死傷罪に問われた裁判で、全員に無罪を言い渡した。これは、原発事故に絡んだ唯一の刑事裁判だ。







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事故後、東京電力などの責任を追求し、原発に反対する世論が高まった






2012年には、当時の野田佳彦首相が、原発事故の責任は国にもあると述べた。民事訴訟では前橋地裁が2017年、国の責任を一部認め、避難者らに賠償を命じる判決を出した。



2020年には仙台高裁、今年2月には東京高裁がそれぞれ民事訴訟で、原発避難者に対する国と東電の責任を認定している。





廃炉と除染作業



原発事故から10年たった現在も、福島には立ち入り禁止の区域が残っている。関係当局は住民が戻れるよう、廃炉と除染の作業を進めている。



ただ、大きな問題が残ったままだ。放射性物質で汚染された物や燃料棒、100万トン以上の汚染水などを安全に除去するには、今後30~40年間で何万人もの作業員が必要になる。



かつての住民の中には、放射線への恐怖から2度と元の家には戻らないと決め、別の土地で新たな暮らしを築いている人たちもいる。



メディアは昨年、政府が来年にも、フィルターで汚染を軽減した水を太平洋に流し始めると報じた。



一部の科学者は、放出された水は大海によって薄められることから、人間を含む生物に対するリスクは低いとしている。一方、環境保護団体グリーンピースは、放出される水に、人間の遺伝子を傷つける恐れのある物質が含まれていると主張している



関係当局は、汚染水の扱いについて、最終決定はされていないとしている。





(英語記事 What happened at Fukushima 10 years ago?)