テロより深刻な米空母のコロナ感染 (Pars Today)
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新型コロナウイルス
テロより深刻な米空母のコロナ感染
4月 04, 2020 21:05 Asia/Tokyo
テロより深刻な米空母のコロナ感染
米海軍の原子力空母「セオドア・ルーズベルト」で、乗組員の新型コロナウイルスの感染が確認され、感染者は3月31日現在で150人から200人に拡大しているということです。
同様に、横須賀基地に配備されている原子力空母「ロナルド・レーガン」でも感染者が出ています。
内部が密閉された空間となった船舶でクラスターが発生し、感染が一気に拡大するのは、日本で問題になったクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」や屋形船のケースからも明らかです。原子力空母では、感染がいっそう深刻になっていく可能性が高く、米海軍にとっては過激派のテロより重大な脅威と言っていいかもしれません。
「セオドア・ルーズベルト」のブレット・クロージャー艦長も、船内は空間に制限があるとして海軍上層部に危機感を訴え、感染拡大が現在進行中であると報告しました。また、4000人以上いる若い乗組員たちに乗艦を続けさせるのは無用なリスクであり、大半の乗組員たちを下船させ、2週間隔離することを主張しています。
クルーズ船のケースで感染拡大を招いた要因としては、乗員たちが清掃、食事、サービスなど業務ごとに相部屋で生活していたこと、食事も一緒にとっていて、飛沫感染の可能性が高かったことなどが理由として挙げられています。屋形船も雨が降る中で船の窓が閉め切られる中で宴会を行っていたことがクラスター発生の原因と考えられています。
■クラスターが発生しやすい密閉空間
米空母は、将校以外は個室ではなく、2段、3段ベッドの大部屋で生活しています。食事も大きなテーブルを囲んで行います。新型コロナウイルスの予防措置として他の人とは1メートル以上離れることが推奨されていますが、狭い船内ではそうはいきません。空母も深刻ですが、はるかに狭い潜水艦などはもっと深刻な事態となっていることが懸念されています。セオドア・ルーズベルトやロナルド・レーガンの問題は、これらの太平洋地域に展開する空母だけでなく、西アジアなど他の地域・海域に配備される米軍、あるいはすべての国の海軍にもいずれ脅威と受け止められていくに違いありません。
■対岸の火事ではない
現在、西アジアに派遣されている海上自衛隊の護衛艦「たかなみ」にとっても「セオドア・ルーズベルト」での感染拡大は決して「対岸の火事」ではありません。西アジアでは、イランで感染が深刻で、イラン保健省によれば、3月31日現在で、4万4606人が感染し、2898人が死亡しました。米海軍の基地があるバーレーンは4月1日現在で感染者数が515人、死者4人、あるいは米空軍の基地があるカタールは感染者数が693人、死者が1人と西アジアでは最も感染が深刻な国となっています。
「たかなみ」はオマーンのサラーラ港を補給基地として使用していますが、そのオマーンでも179人の感染者が出ていて、補給の際の感染も可能性としては考えられます(感染者数、死者数は日経新聞、「新型コロナウイルス感染 世界マップ」より)。
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は3月23日に、「ウイルスの猛威は、戦争の愚かさを浮き彫りにしている」と述べ、全世界、すべての地域での即時停戦を呼びかけました。これは、イランに対して軍事的緊張を高めてきた米トランプ政権の姿勢についても言い得ることです。新型コロナウイルスが世界的に猛威をふるい、国際的協調が切実に必要とされる中で、軍事力でイランを威嚇する姿勢がいかに不合理かを国際社会はあらためて認識するようになったことでしょう。
グテーレス事務総長が語るように、コロナウイルスは生命の尊厳を全世界に訴えるようになり、シリアのアサド大統領やトルコのエルドアン大統領など、武力で人の生命を奪う行為の非人道性を、コロナウイルスの脅威を前にして世界の人々は身近なものとして感ずるようになったに違いありません。
EUは、3月31日に「貿易取引支援機関(Instex)」を通じて、イランに対する医薬品や医療器具の輸出に着手しました。Instexは昨年1月に独仏英がドルや米銀行を使わずにイランと取引ができるようにしたもので、トランプ政権による制裁強化を迂回するシステムです。トランプ政権によるイラン制裁強化は、2002年に発効した「国際刑事裁判所に関するローマ規程」の「人道に対する犯罪」にも実質的に抵触しています。
国連も3月31日に、コロナウイルスの感染拡大を前にしてイラン、ベネズエラ、北朝鮮などに対する経済制裁を緩和することを呼びかけ、米国内でも30日、バーニー・サンダース上院議員やアレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員、エリザベス・ウォーレン上院議員など34人の議員たちがイランに対する制裁を解除するようにポンペオ国務長官に求めました。米国内も含めて国際社会は、トランプ政権のイラン政策に疑問の声を上げ、コロナの感染拡大に苦しむイランに支援を与えようとする雰囲気が強まっています。
■そもそも何を調査・研究しているのか
このような中でイランを軍事的に締め上げようとするトランプ政権のイラン政策に実質的に協力するかのように、「たかなみ」を西アジアに派遣していること自体が無意味なように思えてきます。西アジアでもコロナ禍が拡大し、ISISのような過激派さえも新型コロナウイルスを恐れる中でいったい何を「調査・研究」しようとするのでしょうか。
「たかなみ」の乗組員たちに感染が発生した場合、西アジア諸国での医療措置を考えざるをえないわけですが、これらの国の政府が感染した乗組員たちを引き受けるかどうかも定かではありません。医療態勢が日本より優れているということは考えられず、狭い船内で「セオドア・ルーズベルト」のように、感染が一挙に拡がることも考えられます。
自衛隊の拠点があるジブチですら感染した乗組員たちを治療のために受け入れてくれるでしょうか。乗組員たちの安全・安心を考えて「たかなみ」を帰国させたほうが賢明に思えますが、果たして日本政府にはそこまで考えが及んでいるのでしょうか。
(宮田律/現代イスラム研究センター理事長)
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