感染症対策、日本政府に立ちはだかる5つの「壁」(チャイナネット)

感染症対策、日本政府に立ちはだかる5つの「壁」(チャイナネット)









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感染症対策、日本政府に立ちはだかる5つの「壁」





タグ:肺炎 感染 官僚制 中央政府 地方





発信時間:2020-03-04 15:36:04 | チャイナネット |






新型コロナウイルスによる肺炎の感染が持続的に蔓延する中、日本政府と国民は「カギとなる1週間」を迎え、国家レベルでの決断を迫られている。「行動が遅い」と批判された安倍政権は2月末、大規模なイベントの中止や外出の自粛を国民に呼びかけたほか、全国の小中学校と高校に3月2日から「臨時休校」を要請するなどの方針を相次ぎ示した。全国一斉の対策が始まろうとする中、「行政の壁」、「法律の壁」、「地方自治体の壁」、「野党の壁」、そして監督的役割を果たす「世論の壁」といった日本の官僚制が避けて通れない「壁」にぶつかっている。日本は自然災害の多い国だ。この20~30年、大きな災害のたびに日本の官僚制は緊急対応時に試練に直面し、苦い経験をしながら改善が図られてきた。環球網が伝えた。





▽北海道で一斉休校、地方から中央へ





首相から休校の指示があれば、文部科学大臣としては従うしかないが、その不満を公にすることはできる。毎日新聞によると、荻生田文部科学相は2月27日に首相が全国一斉休校を要請すると知るとすぐに首相官邸へ向かい、日頃から首相と親しい間柄ということもあって、「官邸は現場のことをわかっているのか」と懸念を示し、30 分間一つ一つ課題を説明し翻意を促したという。



「安倍首相の越権」に対する文部科学省の不満について、横浜市立大学加藤祐三前学長は環球時報の記者に対し、日本では首相は「中央政府の長」として戦略を立て統括するが、具体的なことは、政府の関係部署が担当し、首相はそれを審査したり、意見を提出することができる。これが日本の「官僚制」の特徴。安倍首相は衆議院予算委員会で「最後は政治が全責任を持って判断すべきものと考え、今回の決断を行った」と答弁したが、日本の官僚制にはやはり「行政の壁」がある。文部科学省と首相が連携しなければ、実施にあたって下の足並みもそろわない。



一部の学校では、「地方自治体の指示に従う」や「自主的に判断する」、「補償が出るなら、休校する」という意見も出てきている。



日本では、地方政府のことを「自治体」という。こうした「地方自治体」ははっきり言えば、「自分の縄張りは自分で管理する」というもので、地方のことは中央政府と連携するが、具体的にどうするかは地方自治体が決める。感染拡大を受け、最初にすべての小中学校と高校での休校を決定したのは北海道だった。これにより安倍政権も全国一斉の休校を要請するほかなくなった。産経新聞は、自民党幹部による28日の緊急会議で、安倍首相に「地方自治体があなたの意見を聞くと思うか」との声が上がったと報じたが、やはり感染者の出ていない茨城県群馬県は「県内すべての小中学校、高校を休校しない」と発表した。



読売新聞によると、北海道の鈴木直道知事は28日、新型コロナウイルスの感染拡大防止対策として「緊急事態宣言」を発表し、「戒厳令」を出した最初の地方自治体となった。これについて加藤氏は「これは実際に日本の官僚制がぶつかった『地方自治体の壁』とみなすことができる」とし、「よかったのは今回北海道が日本の感染対策の『モデル地域』となったことで、その意義は大きい」と指摘する。



3月1日、日本の与野党参議院幹部がNHKの番組で議論を展開、一部の野党幹部は、全国一斉休校の要請にはやはり疑問があると意見した。「一斉の要請は撤回し、地方自治体の対応に財政的支援を提供するべき」という見方や、「地方自治体や教育の第一線が今回の要請を理解できていないければ、子供たちに伝えられない」という意見が出た。一方自民党幹部は「いまは批判や非難する段階ではない。政府が十分に力を発揮できるように支持するべきだ」と強調した。「野党の機能の一つは与党を妨害、監督することだが、ある意味これも日本の官僚制が危機対応時に立ち向かわなければならない『野党の壁』となっている」という日本の学者の声を記者は度々耳にした。





▽「それはうちの管轄ではない」





日本ではクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」での感染者が最も多く出た。このクルーズ船は日本籍ではなく英国籍で、経営者は米国人。「旗国管轄原則」に従い、船舶内の事項は船主「本国の事項」とされる。外国の政府当局の許可なしに関与できないのだ。そのため日本政府はクルーズ船の乗客の下船を許可しないことはできるが、船内の乗客に強制措置をとることはできない。「環球時報」の記者が在日本中国大使館の職員から聞いた話によると、救助を求めてきた香港籍の乗客に連絡を取った際、様々な難題にぶつかり、日本側と何度も交渉の末、ようやく必要な薬をクルーズ船に届けることができたという。



安倍政権は、観光業への深刻な影響、2020年の東京五輪への影響、人道主義に対する世界的なイメージ、国際社会の信頼喪失などを考慮し、紆余曲折を経てようやく乗員・乗客を分散して横浜で下船させる決断をした。ただ、人身の自由が制限され、人権が侵害されるとの懸念から乗客・乗員に対して専用車や集団検査などを強制しなかった。その結果、下船した日本人はタクシーやバスで帰宅し、帰宅後に陽性と診断された人もいる。加藤教授は「これが日本の官僚制に立ちはだかる『法律の壁』」と指摘。この問題を解決する議論には時間がかかるため、その過程で損失や新たな犠牲が出る。「日刊現代」はクルーズ船での新型コロナウイルスによる死者を「失政の犠牲者」と呼び、各国の世論も日本政府の対応を批判した。



日本の官僚制に立ちはだかる様々な「壁」は今になって出現したものではない。こうした「法律の壁」はかつて日本政府に教訓を残した。1995年1月17日、阪神大震災の発生後、日本の法律では、地方の消防などの部署が集めた災害情報は国土庁を介して首相官邸に送られることになっていた。こうした情報伝達の遅れから、首相は一般市民と同じようにテレビを通じて被災状況を知るというありさまだった。米紙「ワシントンポスト」は日本での感染について論じ、2011年の福島での原子力発電所事故についても「人為的な災難」だったとし、日本の官僚主義の集団的概念は、組織の利益が公共の安全を守るという最も大事な職責よりも優先される仕組みになっていると言及した。



「環球時報」の記者は阪神大震災や2011年の東日本大震災、2018年の西日本豪雨を日本で経験し、第一線で取材してきた。表面的には災害が起きるたびに日本政府および各地の地方自治体は「対策本部」を立ち上げ、各部署の責任者が中心となって連携し合っているように見えるが、緊迫した「臨戦状態」の裏側といえば、日本の緊急対策は気持ちばかりで対応が追い付かない状況が数々見られた。阪神大震災発生後、記者は東京から新幹線で大阪まで行き、神戸に向かおうとしたが公共の交通手段はなく、数十キロの道のりを歩くほかなかった。途上、秩序は保たれ、市民は救助活動を展開し、無料でもらえる新しい下着や本、食料品などの物資が入った段ボールが道脇に置かれていた。神戸では、暴力団組織の山口組が本部前で市民に日常生活用品を配っていた。自衛隊に救援に来てほしいという市民の声に対し、当時の村山首相は「自衛隊を派遣することはできない」と発言。その際ある寺院を通りかかると、身元不明の白い棺が並んでいるのを記者は目にした。その寺の住職は「自治体に遺体引き取りの知らせを出してほしいとお願いしたが、『それはうちの管轄ではない』と断られた」と話した。



東日本大震災後に記者が新潟県を取材した際も、県庁内で地元住民と「その問題はうちの担当ではない」という職員が言い争う光景を目撃した。西日本豪雨でも被災後の補助などの問題をめぐって地方自治体の各部署で意見が対立し、多くの被災者が帰る場所がないという状況を招いた。こうした状況に日本国民の不満は募っている。





▽大きな災害後、「苦い経験を教訓に」





日本の官僚制は「世論の壁」との駆け引きもある。「産経新聞」は社説で、これまでの政府の対応は遅く、発表した情報も不十分、法的体制や医療検査体制にも不備があるとし、制度から改善する必要性を求めた。「日本経済新聞」も、世界最新の感染情報を集める体制の迅速な構築、政府の関連部署の横のつながりを主導する「司令塔」の設立、感染拡大情況がわかるホームページの開設を政府に求めるとともに、首相にメディアとの意思疎通を提案した。



日本のメディアはその矛先を加藤厚生労働相に向けている。週刊ダイヤモンドは「一国の制度は法律、政令、法則などで構成されるが、最終的には政治家が決断するものだ。国の衛生の最高責任者である加藤厚生労働相は危機が到来しても毎日テレビカメラに笑顔を向け、何を決定するのも遅い。これは最も容認できないこと」と批判した。



夕刊フジによると、日本政府は1月30日、「新型コロナウイルス肺炎感染症対策本部」を設置したが、2月18日までに開かれた会議はたった11回。本部長である首相が毎回会議の始めに簡単な挨拶をし、会議全体はたった10分足らずだったという。東京新聞などが掲載した読者からの手紙にも「感染症への対応が遅い」といった声や「経済の悪化を招くのでは」といった懸念、「各党に人命優先の行動」を求める声が上がっている。「世論の壁」による監督は、日本社会全体の再認識、そして関連制度の改善を促す。



客観的にみると、大きな災害を経験するたびに日本の行政体制、特に官僚制は変化してきた。阪神大震災後、日本政府は事務的な情報の伝達体制を改革。さらに「災害対策基本法」を全面的に改正し、被災地への自衛隊派遣を「常態化」させた。東日本大震災後は行政制度改革に積極的に取り組み、政府と都道府県による救援物資の支援、分配、物価への関与権限を拡大し、政府が被災地の市町村に代わって被災者の避難に協力できるようになった。



加藤氏は「環球時報」の記者に、日本にいまの官僚制ができたのは歴史的要因があると説明。加藤氏によると、戦時中、日本の行政体制は何事も軍部に合わせ、自らの権限を大きくした。その結果日本は敗戦、民衆はこうした行政体制を敵視するようになった。戦後、日本の行政体制は「分権」「権限制限」「各々が各々の職責を果たす」ことに重点が置かれ、権力は大きいほどいいのではなく、細分化されたほうがいいとなった。つまり各部署はその部署以外の仕事をやりたがらない、官僚が法律や行政規定以外のことをやりたがらないという弊害を長年積み重ねることになった。一見責任感があるようだが、実際には重責を担う精神がない。現在、日本社会は行政体制改革の重要性に気づき、官僚主義の弊害をさらに克服しようとしている。日本の官僚制は大きな災害があるたびに大きな試練に直面し、幸いにも大きな試練のたびに進歩しているといえるのではないだろうか。





「中国網日本語版(チャイナネット)」2020年3月4日