意見:コロナウイルスは中国を強くするかも知れない (DW English)

意見:コロナウイルスは中国を強くするかも知れない (DW English)











(Opinion: Coronavirus could strengthen China: DW English)

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意見

Opinion





意見:コロナウイルスは中国を強くするかも知れない





最初に失敗はあったが、北京はその後コロナウイルス危機に対してSARSの時よりも効率的に行動した。しかし、このテストに合格するために中国はいくつかの課題を克服する必要があると、DWコラムニストのフランク・ジーレンは語る。









コロナウイルスは中国のエリートたちをしっかりと掌握した。習近平国家主席はこの「深刻な問題」について語った。李克強首相は防護マスクを着用して武漢の最前線に行き、この伝染病の規模を自分で評価した。政治局常務委員会の危機管理会議が―中国で最も重要な祝日である春節に―国営テレビで放送され、普段は深い秘密に隠れた権力中枢の珍しい舞台裏を見せた。





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北京のメッセージは明確だった。私たちは中国から全世界に蔓延しつつあるウイルスを封じ込めるために必要なことを全て行う!また、習氏は同志たちに明確な警告を発し、病気の蔓延を隠そうとする者は誰でも「永遠に恥の柱に釘付けにされる」と述べた。









李克強総理が武漢を訪れ、危機を直接見て回った





現在までの北京の措置は前例ない規模だ。権威主義的な一党制国家だからこそ、これらをここまで迅速に実施できた。約5,600万人が検疫下にあり、少なくとも14都市で航空・鉄道・長距離バスの交通が停止している。信じられないことに、被災地域でデモは行われなかった。暴動がなかったのは言う迄もない。政府の過酷な措置に対して人民はとても寛容に思える。





主要な諸行事が中止に





当局はまた、春節の諸行事や人民待望のスポーツ大会を取り止め、万里の長城への交通路を閉鎖した。武漢では、面積25,000平方メートル(270,000平方フィート)・ベッド数2,300床の病院がゼロから建設され、2月上旬には稼働する予定だ。最も被害が大きかった省・湖北省では、1億ユーロ(1億1,000万ドル)相当の費用を掛け緊急対策が実施されている。何百人もの医師や他の医療関係者が既にこの地域に送られた。春節休暇は延長され、学校や一部企業は予想よりも長期間の閉鎖が続く。





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2002~2003年のSARS大流行では状況が異なっていた。伝染病の規模が低下するまで数ヵ月掛かった。病気が統御下に置かれるまでに800人が死亡した。北京では現在ほぼ1時間ごとに症例数や発症者などの数に関する情報を提供している。 新病院建設工事のライブストリーミング動画まで配信されている。







武漢では新病院の建設作業が進行中だ





SNSではこの数年間ほどの検閲は行われてない様子で、コロナウイルスの大流行が一番の話題だ。働き過ぎの看護師たちの動画や怒りのミーム画像が流布している。これらの1つ、先週放送された新年を祝う見応えのある番組では、疲れた医師がお祝いでなく殺風景な部屋でインスタントラーメンを食べている様子が一緒に映されていた。今のところこのような批判は容認されている。北京はやっと野生動物の取引を禁止した。これはずっと前に行うべきだったことだ。コウモリやヘビを食べないことはあまり難しいことでない。





原因はコウモリのスープ?





この伝染病は、エキゾチックな野生動物が売られている武漢中心街の華南市場が発生源と考えられている。しかし、今では有名になったコウモリが中で泳ぐスープを食べる女性の動画は、この市場で撮影されたものでない―中国ですらない。西太平洋、パラオの島々から来たものだ。ウイルス発生源について説は多いが正確にはまだ不明だ。中国でいまなお珍味と見なされているコウモリのスープのようなもの、というのは可能性に過ぎない。





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通常、議論を呼ぶコメントはパニックを回避するために直ちに全て削除されるので、このような問題についてネット上の討論が発展する時間はない。しかし、政府は今のところ制御の手綱を緩めている。ダメージコントロールの重要さを知っているのだ。当局がこのような時に検閲を強化した場合、人民の一般的な不確実感は簡単に怒りに変わる可能性がある。結局のところ、公式統計に対する中国人の信頼には限界がある。2008年の粉乳スキャンダルから2011年の温州の列車衝突事故まで、あまりにも多くの隠蔽が過去に存在した。







ウイルス大流行の中心と考えられている市場は閉鎖された





武漢では重大な失敗がいくつかあったことも否定できない。周先旺[Zhou Xianwang]武漢市長は月曜日に辞任を申し出、十分な早さで情報が公開されなかったことをCCTVのインタビューで認めた。これは毛沢東主義自己批判の現代的な形だったが、彼は地元の政治家として上からの承認なしにそのような情報を公表する権限を持っていなかったとも述べた。これは北京に対する側面からの勇気あるブローだ。





危機は結束を生み、進歩すらもたらすか?





中国のハイテク企業も、危機と戦うために出来ることを全て行っている。微信[WeChat]は、ユーザーが不審なインシデントと不適切な対策を報告できるように、新しい機能を始めた。電子商取引プラットフォームの淘宝[Taobao]は、危機に乗じて金儲けを目論む企業によるフェイスマスクの販売を取り止めた。世界の多くでTikTokとして知られるストリーミングプラットフォーム抖音[Douyin]は、危機により映画館が閉鎖されたために見られなくなった春節映画を配信している。一日が終わってみると、危機は連帯をも生み出していた。中国の大部分の人々は、政府が誇張した方法で反応したと考えていない。世界保健機関は「中国における緊急事態」を宣言したが、まだ「世界的な健康緊急事態」ではない。







DWコラムニストのフランク・ジーレン





伝染病がどのように進展するかはまだ不明だ。その死亡率はいまなおSARSやその他の呼吸器感染症を大きく下回っている。それに比べて、ドイツでは毎年約20,000人がインフルエンザやその影響により死亡している。世界ではこの数字は200,000~650,000人の間にある。



1つ確かなことは、北京は安定を最も優先している。中国政府は人民が自分たちで選出したものでないため、抗議や暴動を避けたければ北京は素早く結果を出さねばならない。



伝染病の経済的影響はまだ予測できない。しかし、観光業は既に影響を受けており、フランスのルノー、米国自動車メーカーのゼネラルモーターズ、日本のホンダを含むいくつかの主要な国際企業も武漢での事業を止めねばならなかった。一部メディアは、第1四半期の中国の経済成長がこの大流行のために5%未満に落ち込むかも知れないと予測している。SARSも著しい経済的影響を与えたが、現時点ではこれらは全て推測に過ぎない。コロナウイルスが直ちに封じ込められる可能性は十分にある。それが医療制度や動物福祉の改善、または検閲についての議論にさえ繋がるならば、この危機は中国を更に前進させたことになるだろう。





DWコラムニストのフランク・ジーレンは20年以上北京に住んでいる。





発表 2020年1月29日

記者 フランク・ジーレン

キーワード 中華人民共和国, コロナウイルス