【解説】 もしも戦争になったら石油はどうなる? イラン司令官殺害 (BBC NEWS JAPAN)

【解説】 もしも戦争になったら石油はどうなる? イラン司令官殺害 (BBC NEWS JAPAN)









https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-50991053





【解説】 もしも戦争になったら石油はどうなる? イラン司令官殺害





2020年01月6日





ネル・マッケンジー、ビジネス記者







Getty Images

ニューヨーク・マーカンタイル取引所での石油の取引風景






2004年にイラクであらためて戦争が本格化したとき、一晩でアメリカの原油価格が1バレル当たり10ドルも跳ね上がった時のことを、ミッチ・カーン氏は覚えている。



これは、トレーダーが最小限の買い注文をしても5万ドル(約540万円)の利益が出る変化だ。売り注文をしていた場合は、同じだけの損失につながる。



カーン氏は当時、ニューヨーク・マーカンタイル取引所NYMEX)で独立系のトレーダーとして働いていた。ここでは下の階で原油やガス、灯油などが、上の階で貴金属などが取引されている。



2004年には、激しい抗議の声が原油価格を決めた。トレーダーたちは立ち上がって叫んでいた。価格は売り手と買い手の提示する値段で決まる。買う人も売る人もいた。



取引所内の騒音はすさまじく、耳栓をするトレーダーもいたという。しかしカーン氏は、アドレナリンが出ていたから耳をふさがなくてもはっきりと聞こえたと話した。



今でこそNYMEXでは24時間取引だが、2004年当時は、午後2時半のベルとともに取引が終了した。



2004年のこの日は取引開始とともに、カーン氏の右側にいたトレーダーが叫び始めた。このトレーダーが石油を売ろうとし始めると、「石油価格が暴落した」という。



数分後には、原油価格は1バレル当たり20ドルも下がった。しかし、現在はこのような事態は起こらないだろうとカーン氏は指摘する。



「今の市場の動き方は当時とは違うので」



事実、イラクバグダッドの空港近くで3日にイランのカセム・ソレイマニ司令官が米軍にドローン空爆されたのを受け、直後には石油価格が急騰したものの、石油市場の動きはイラク戦争の時とは大きく異なる。



原油の生産地も、精製方法も、取引方法も、カーン氏がアドレナリンの力を借りて価格の混乱をくぐり抜けた当時とは全く違うのだ。





ルールが変わった





アメリカの無人機(ドローン)がイラン革命防衛隊の精鋭コッズ部隊を長年指揮してきたソレイマニ司令官を殺害したというニュースに、3日のブレント原油価格は69.5ドルと4%上昇した。



これに合わせ、英BPやロイヤル・ダッチ・シェルといった石油メジャーの株価も1.5%ほど上がった。



バンク・オブ・アメリカコモディティー戦略に携わるマイケル・ウィドマー氏によると、2004年から現在にかけて石油市場を変えた最大の要因は、アメリカが自国で十分な石油を生産し、輸入に頼らなくなったことだという。



アメリカはもはや、中東の原油に依存していないのだ。



「これが実質的なルールを変えた」とウィドマー氏は指摘する。



たとえば、昨年9月にサウジアラビアの石油施設がドローンに攻撃された事件などは良い例だ。







Reuters

昨年9月にサウジアラビアの石油施設がドローンに攻撃され、同国は一時的に石油の生産を停止した




「石油供給という点では、世界の石油市場にとって最大の事件のひとつだったが、持続的な影響はなかった」とウィドマー氏は話した。



攻撃当日、原油価格は1バレル当たり10ドル近く上昇したが、その後は大きな出来事はなかった。



イランとアメリカの間で厳しい非難の言葉が飛び交い、新たな制裁が示唆されるなど、政治的には緊張感が高まった。しかし、2週間後には原油価格は60ドル以下まで下がった。



結局のところ、価格乱高下の懸念よりも、辛らつな政治的やりとりの方がいつまでも続いた。



これはロシアやアメリカなど、国内で石油を生産する国が増えたからだ。



下表は、世界の五大石油産出国の産油量を年ごとに比較したものだが、各国がここ10年ほどで急激に産油量を増やしているのがわかる。







US EIA





薄まるOPECの影響力





中東の石油産出国を中心とした石油輸出国機構OPEC)はかつて、石油の供給を牛耳っていたが、今はもうそのようにはいかない。



「現在、OPECが石油の生産量を落としたとしても、他国が国内生産量を増やす余地を与えるだけになってしまった」とウィドマー氏は指摘する。



コンサルティング会社ウッド・マケンジーマーケティング・リサーチチームを率いるアラン・ゲルダー氏によると、OPEC加盟国はかつて世界の石油の半分を生産していたが、今では3分の1以下だという。



1990年の湾岸戦争当時、石油は2地域で生産されていた。片方はOPEC加盟国。もう片方は北海など、よりコストが高く危険が伴う地域だった。



海底の石油を探索し掘り出すというのは、40年前には予想の付かない危険なやり方だったのだ。



しかし北米でフラッキング(水圧破砕法)による採掘が可能になった今、アメリカには豊富な石油資源がある。



「当時はコモディティー市場が確立したばかりだった。今では参加者もずっと多くなっている」とジェルダー氏は説明した。



また、5年前よりも格段に情報が手に入るようになったという。



昨年9月にサウジの石油施設が攻撃された際、施設や港を出る船舶を写した衛星写真から、事件後すぐに生産と輸出が再開されたことが分かった。



「数年前までは、人々は狂ったようにお互いに電話をかけて、何が起きているかを把握しようとした」







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それに対して現在のOPEC加盟国やロシアなどの産出国は、できる限り石油の生産を抑えることで合意している。



そのため、中東地域で緊張が高まったときに石油価格がどうなるかは、非常に予測が難しい状況だ。



シティバンクのアナリストらは、報復攻撃の恐れがあることから、短期的には石油価格も高い水準に留まるとみている。



アメリカの石油企業が保有するパイプラインや、欧米石油メジャーが投資している開発地域に攻撃があれば、原油価格はさらに高くなる可能性もある。



一方、イランとアメリカの紛争が何らかの形で解消すれば、状況は緩和され、石油価格も下がるという。





(英語記事 What will happen to oil if there is another war?





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